進学情報センター

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東京大学進学選択学科紹介

法学部

法学部の沿革

法学部の起源は、1872年(明治5年)7月司法省設置の「法学校」と、1873年明治6年)4月文部省設置の「開成学校法学科」に求められます。その後、1877年(明治10年)4月に「東京大学」が創設され、そこに「法学部」が置かれました。そして、1885年(明治18年)に、司法省の「法学校」の後身である「東京法学校」と、「東京大学文学部政治学及理財学科」とが、あいついで法学部に合併され、ほぼ原型が確定しました。以後、今日まで、様々な組織的変更を経て今日の法学部に至っていますが、一貫して日本における法学・政治学研究の中心として機能し、そのことに裏打ちされた高度な教育によって、外国人を含む多数の優れた人材を育成し、司法・行政・政治・経済・言論報道、そして学問等の各界に卒業生を送り出してきました。卒業生は6万人を超えています。

法学部の教育の目指すもの

法学部では、法学だけでなく、それと政治学とが対をなすものとして研究され、教育されています。それは、近代社会においては、法と政治は、ともに不可欠であるだけでなく、政治が法を定め、実現し、そして、法が政治を形づくり、導くという意味で、両者は、相互に支えあう関係にあって、分かちがたく結びついているからです。
法学部では、司法・行政・立法という、巨大にして複雑な、そして人々の生活・人生・生命に直接関わる重大な現象を、多種多様な角度から学びます。そして、学生は、法的思考や政治学的識見の基礎を、自らのものとすることが期待されています。法学部というと、法律家の養成のための学部というイメージがあるかもしれませんが、本学部の卒業生の進路は多様ですし、また、法律家を目指す学生についても、そのために、狭い意味での法学のみをひたすら学習させるようなことは、本学部の教育の目指すところではありません。
法学部では、このような理念に対応して、履修可能な科目が展開され、卒業に必要な単位数が定められています。学生は、中核的な科目については、必ず体系的に履修しなければなりませんが、それ以外は、法学、政治学を中心に、多彩に用意された科目の中から、自分の関心・進路の志望によって自由に選択し、個性的に自分の力を伸ばしていくことが可能となっていますし、また、それが期待されているのです。
この理念を支えるものの一つとして、法学・政治学専門図書館としては世界屈指のコレクションを有する図書室が置かれており、蔵書数は約70万冊、その過半数は洋書です。

法学部への進入学と卒業

法学部には、原則として、教養学部文科一類の学生が進学します。他の科類の学生も、教養学部での成績順に、20名程度、法学部に進学する道が開かれています。ただし、例年、希望者が多数に上るため、進学には極めて高い成績を要するのが通例です。
法学部には、第1類(私法コース)、第2類(公法コース)、第3類(政治コース)の3つの類が置かれており、学生は、その希望に応じて、いずれかの類に所属します。類ごとに、必修科目、選択必修科目が異なっていますが、しかし、法学部の類は、他学部の学科のように高い障壁で区切られたものではなく、履修の仕方により、どの類にいても、内容上、かなり似た学習ができるようになっています。また、将来の大学院進学や就職についても、若干の対応関係があるにとどまり、どの方向に進むにしても、それほど大きな支障はありません。
法学部に進学した学生は、2年の修業年限を終え、所定の科目の定期試験に合格し、必要な単位数を取得したときに卒業を認められます。卒業後の進路は、多方面にわたっていますが、2004 年春の法科大学院の開設により、大学院への進学者が増加しているのが最近の特徴ということができます。

法学部のカリキュラム

法学部の授業科目は、科目の性質・関係等を考慮して、段階的な履修が無理なく進んでいくように2年次から4年次に配置されています。このほか、少人数で一つの机を囲み、特定の資料や課題をめぐって報告し、討論する演習と、特定の先端的な課題について講義する特別講義が、毎年相当数開講されます。

法学部の授業の特徴

法学部の授業は、主に、講義と演習との2つによります。講義は、様々な規模の教室で、教員が語りかけるというのが基本です。
講義に加えて、ほぼすべての教授・准教授が、毎年、趣向を凝らした多種多様な演習を開講しており、学生は、どの類に属するかに関わりなく、その中から関心のある演習を選択して履修することができます。演習は、その主題について、教員や友人と対話しつつ深く学ぶ機会であり、同時に文献を精読し、自ら調査し、発表し、質問し、回答し、議論するといった能力を磨く機会でもあります。演習が持つこのような利点をふまえて、法学部では、法学部に所属する間に、最低1つの演習に参加することを必須としています。

法学部における学生生活

法学部のカリキュラムと授業内容の密度は高いうえに、定期試験の実施と採点は極めて厳格に行われます。その意味では、法学部の学生生活は相当に厳しいものであることは間違いありません。そのような環境の中で、一般的にいえば、学生の勉学意欲は高く、講義や演習に積極的に出席することはもちろん、自主的に勉強会を組織している例も少なくないようです。法学部としても、成績の優秀な学生を表彰する制度を設けています。
法学部には、学部内の組織として、学習相談室が設置されています。同相談室は、本学の大学院修了クラスの学習相談員と、臨床心理士の資格を持た心理カウンセラーとが互いに協力し、法学部学生の学習面の相談から、将来の進路や日常生活上の悩みに至るまで、幅広く相談に応じています。こうした恒常的な活動に加えて、毎年、本学の卒業生を招いての進路選択講演会や、大学院生による学習セミナーを開催しています。
また、法学部には、法学部学生を普通会員、教員を特別会員とする緑会という組織があります。緑会は、学生生活の向上のための日常的な業務に加え、官庁による講演会の企画等の活動をしています。

経済学部

本学部の教育研究上の目的

本学部は、経済学・経営学の多様な分野に関する理論的・実証的な学説・知識を体系的に講義するとともに、演習などで個別研究を行う機会を提供することによって、国際的な視野に立って実業界・官界・学界などで活躍する人材を養成することを目的とする。

各学科の特色
  • 経済学科

経済社会の諸現象を国際的な視点から巨視的に把握するとともに、それを構成する諸領域(産業、国際貿易、財政、金融、労働など)を理論的・実証的・歴史的に分析する能力を培うことを目的とする。

経済社会を構成する企業の活動(経営管理、経営戦略、マーケティングなど)および経営組織における人間行動を、国際的な視点から理論的・実証的・歴史的に分析する能力を培うことを目的とする。

  • 金融学科

資産運用、金融商品開発、企業金融、リスク管理など民間の経済主体が行う金融戦略と、金融規制、金融システムのデザイン、マクロ金融政策、通貨政策など政府や中央銀行が行う金融政策を統一的に把握・分析することを目的とする。

文学部

A群(思想文化)

哲学

「哲学(Philosophy)」という、ギリシアに由来するこの語のそもそもの意味は、よく知られているように、「愛智」つまり「智を愛すること」である。それは、何か別のことのために、つまり、何かの役に立つから「智を愛する」のではない。そうではなくそれは、純粋に「智を愛する」、ただ徹底的に考え抜きたいが故に、ただ徹底的に知りたいが故に、ただそのことの故にのみ、「智を愛する」ことである。

もっともこう言えば、単に「哲学」のみならず、時にその対極と捉えられる「科学」もまたそうではないか、と言われよう。「科学」――とりわけ基礎科学――もまた、同様の「愛智」の営みではないか、と。たしかに、そうでもあろう。実際、哲学は時に「科学の先駆け」とも見なされる。けれども両者の間には、やはりある本質的な相違が存している。というのも、科学において問題は、徹底して一般性・客観性だからである。ここにおいては、個別性もしくは主観性は徹底して排除される。科学的知識に「私」を持ち込むことは、厳禁である。だからこそそれは、万人が共有できる道具としての「知識」でありうる。しかし、かのソクラテスは、こうした「知識」には全く無関心であった。「私」自身の投影しない知――単なる一般的客観的な知――は、根本的には知(智)の名に値しない。本当の意味での智とは、自ら(「私」自身)の智であり、「私」がその智を自ら生きるのでなければならない。「愛智」の「智」とは、そうした智であり、「愛智」つまり哲学の営みとは、そうした智を徹底して考え抜き、徹底的に知ろうとする――言うならば、徹底して智を生きようとする――営みである。

だからこそまた、カントはこう言った。「哲学は学ぶことができない。学びうるのはただ哲学することだけである」、と。「私」自身の智は、「私」自身において考え抜かれなければならない。人から教えてもらうことはできない。ただ、どう考え抜いたらいいのか(哲学の仕方)を、私たちは偉大な哲学者達(古典)との対話を通して学びうるのである。

「哲学」の営為は、とりわけ西洋において二千数百年にわたって連綿と続けられてきた。この先哲の営みが、我々の哲学的営為を支えてくれる。それは、私たちの営為の空転を阻み、私たちが荒唐無稽な一人よがりに陥ることを回避させてくれる。

むろん、こうして哲学を「生きる」ことは、いろいろな意味でなかなか難しい。しかし、こうした哲学の意味を知ることは、どのような進路に進むにしても、この上なく大事なことである。テクストをとおしてまさに先哲との対話を行う演習や、自らが徹底的に遂行した思索の証としての卒業論文の作成は、間違いなく人生の大きな糧となろう。

哲学研究室は、こうした哲学研究・教育の場である。哲学研究室はまた同時に、今日的な問題へも真摯に取り組もうとしている。生命倫理環境倫理、情報倫理などをめぐって、科学が根本的・根源的な問いへ眼差しを向けるとき、その眼差しの先にあるものは、やはり哲学である。いま、哲学に対する期待・関心は大いに高まっている。こうした期待・関心に応えるべく、大学院生を中心に「応用倫理勉強会」が組織され、人文社会研究科における他分野交流演習の応用倫理に関するプロジェクト、また、「21世紀COEプログラム」の「生命の文化・価値をめぐる『死生学』の構築」等に積極的に参与している。こうして時代に応じ、時代に真摯に向き合うこともまた、哲学研究の本分である。

中国思想文化学

本研究室の前身は「支那哲学」という名称であった。その後、国内の他大学にあいついで同名の講座が設けられるが、日本や中国に伝わる旧来の方法論を踏襲するだけではなく、中国古来の思想的営為を西洋伝来の「哲学」という学術によって分析・理解しようとする立場をとる点に、本学の特色があった。第二次世界大戦後に「中国哲学」、1994年からは「中国思想文化学」と改称し、現在にいたっている。1995年以降、大学院では「東アジア思想文化学専門分野」となった。

本研究室の学問的特徴は、上でも述べたように、中国の学術・思想を体系的・歴史的に整理して理解しようとするところにあり、その伝統は今でも継承されている。当初はいわゆる諸子百家の思潮と朱子学陽明学とに関心が偏っていたが、しだいに他の時代や思想を研究対象として意識するようになり、現在では狭義の哲学的営為のみにとどまらず、宗教・科学・政治思想・教育思想など幅広い分野にわたって研究・教育が行われている。また、中国と関連する範囲で日本・韓国の思想も扱われている。

本研究室の卒業生は累計してもその数は決して多くないが、学界・教育界をはじめとする各界で活躍している。学部学生は大学院に進学するほか、学校・官庁・企業に就職する者も少なくない。また、他大学を卒業してから本研究室の大学院課程に入学してくる者も多い。全体に占める留学生の割合が高いことも特筆される。

授業形態は他の研究室と同様、一般的に当該分野の基礎知識・研究動向を伝達する概論概説講義、非常勤講師を含めて教員が各自の最新の専門的知見を披歴する特殊講義、学生に研究方法を指導する演習とからなる。大学院の場合は授業のほとんどが演習形式で行われる。演習では文献読解のためのさまざまな技法が具体的な材料を扱いながら指導される。近代・現代の資料を除き、本研究室に関する資料は古典中国語で書かれており、それらを当時の語法や句法に忠実に一字一句もゆるがせにすることなく読み解いていくことが求められる。しかも、対象とする資料の時代や性質に応じて語法・句法は千差万別であり、学生は自分の問題関心・研究テーマに即して必要なものを修得していかなければならない。なお、ここで言う資料とは、後世に書物の形で伝承されたいわゆる伝世文献のほかに、近年の考古学的成果により発見された出土資料を含む。

現在、専任教員は5名。うち1名は外国の有名大学・研究機関から、国際的に評価されている研究者を招聘している。他の4名は、中国の思想文化の多様性を反映して、専攻する時代や分野がそれぞれ異なっている。さらに、大学院では総合文化研究科・東洋文化研究所・社会科学研究所所属の専任教員にも授業を担当してもらい、日本を含む東アジア全域にわたる教育指導ができるような体制となっている。

インド哲学仏教学

本学におけるインド哲学仏教学研究(通称「印哲」)は、明治12(1879)年に原担山が和漢文学科の講師として仏書講義を開講したのに遡る。その後、西洋のサンスクリット語(梵語)研究や、英独に留学した研究者などの影響を受け、研究領域は、古典中国語を通じた仏教研究から、サンスクリット語パーリ語原典を用いた研究、さらには仏教以外のインド哲学をも包含するまでに発展する。本学における印度哲学講座の創設は大正6(1917)年。

研究者としては、漢訳仏典の底本として国際的に名高い『大正新脩大蔵経』の編集に携わった高楠順次郎のほか、わが国のインド哲学仏教学研究の基礎を確立した宇井伯寿、精緻なインド哲学仏教を基礎に、広く比較思想にまで研究領域を拡げた中村元などの文化勲章受章者も輩出した。

現在のインド哲学仏教学研究室は、インド哲学、ならびに、インド仏教・チベット仏教・中国仏教・日本仏教などの仏教学を主要な研究領域としている。これらの諸領域は哲学・倫理学歴史学、宗教学、中国哲学などの分野とも関わり、研究は自ずと学際的要素を含むことになる。本研究室は、先達の学風を継承し、一次資料である古典文献の解読を研究の基本に据えており、そのため学部教育においては、サンスクリット語文法が必修となっているほか、パーリ語チベット語、中国語など、専門領域に応じた語学の習得が求められている。また、卒論に替え、サンスクリット語などの古典を原書で講読する特別演習を履修する者が多い。過半数は大学院に進学し、学部と大学院との連続性を重んじた教育を行っているのが特徴だ。

韓国、中国、台湾などのアジア諸国のほか、欧米からの留学生が大学院学生のおよそ4分の1を占め、研究室は国際的雰囲気に包まれている。仏教の起源や思想、インド哲学諸派との論争を通した相互の思想展開、日本文化のルーツとしての仏教への関心、さらには宗教的な求道心など、学生たちの研究契機や関心事は多様だが、原典の綿密な読解を通じてテキスト内容を深く味わう基本姿勢を大切にしている。長い伝統に培われた宗教的、仏教的なものに触れる機会に溢れ、また難解なインド哲学文献や仏典などが自力で読めるようになる喜び・手ごたえは何ものにもかえがたく、この学問を進めていく上での大きな魅力になっている。

倫理学

行為の善悪や人間関係の理法について探求し、さらには現代社会の緊急の問題群の原理について考える、そういった様々な倫理学の課題に、本研究室は、古典的テクストの読解と思想史研究を踏まえてアプローチするところに、特色がある。第二次世界大戦前後、長く研究室の主任を務めた和辻哲郎は、西洋思想と東洋思想の融合および規範学としての倫理学と事実の学としての諸学の統合を目指し、独自の倫理学の体系を築き上げるとともに、広く人文科学一般の諸分野でも成果を挙げた。この多様な学問領野に開かれているという性格は、本学出身の研究者に脈々と受け継がれている。金子武蔵のドイツ観念論研究や相良亨の日本思想研究と並んで、湯浅泰雄の東西の諸学の統合が、そうした伝統を受け継ぐ。

倫理をめぐる人類の思索の膨大な蓄積に分け入った対話を踏まえる限り、学生の研究対象の選択も各人の自由に任されており、実際、これまでの卒業生の研究テーマも、洋の東西を問わず、また古代から現代に至るまで、多彩である。2名の専任教員と数名の非常勤講師による本専修課程の講義・演習の対象領域は、西洋の倫理思想と日本のそれとに二大別される。倫理学がいち早く自覚的な形態をとった西洋の思想伝統を学ぶことは、日本倫理思想史を専攻しようとする学生にとっても欠かすことはできないが、他方、西洋の倫理学に関心を持つ者にとっても、自らが背負う日本の伝統との対話は必須となる。相異なる領域への幅広い目配りが求められるのも、本研究室の特色である。

このように、倫理学専修課程は、一方では古典的学問研究を尊重しつつも、他方では、西洋哲学、日本思想、さらには社会科学、宗教学等の諸学問に開かれた幅広い内容を持つ研究教育を目指している点で、思想文化学科/基礎文化研究のなかでも特徴を示していると言えるだろう。そのような条件をどう生かすかは、学生諸君の自発的研究に期待されている。なお、本研究室を卒業した後、大学院への進学を希望する者は少なくないが、近年では民間企業等に就職する者も多く、就職先は、マスコミ・出版、広告代理店、銀行、電機メーカー等、多様である。

宗教学宗教史学

明治38年(1905年)、東京帝国大学文科大学に宗教学の講座が開設されたのが当研究室の始まりである。初代の教授は、文人としても知られた姉崎正治(嘲風)であった。

宗教学という学問は比較的新しく、欧米の大学に宗教学の講座が置かれはじめたのは十九世紀末のことである。それ以前は、欧米で宗教の学問的研究といえばほぼキリスト教神学に限られていた。これを行う神学部から独立して、キリスト教だけでなく、仏教やイスラム教といった大宗教はもちろん、いわゆる民間信仰や「未開」社会の宗教まで、古代エジプトの宗教から現代の新宗教まで、特定の宗教伝統や地域に限定することなく、あらゆる宗教現象を研究対象とする学問として宗教学は成立した。そうした新興学問のための講座が、日本で二十世紀の初頭に生まれたのは、世界的に見ても稀な早さであった。

宗教学は、このようにあらゆる宗教現象を研究する学問だが、研究方法もさまざまである。古い経典の精密な読解も、現代社会の宗教状況調査も宗教学でありうる。対象を理論化する視点も、哲学、思想史、社会学、心理学、人類学、民俗学、文献学、図像学、等々、どれであってもよい。したがって当研究室では、各自の関心におうじた自由な研究が許容されており、学生に特定の研究対象を指定するようなことはほとんどない。他学科の講義にも積極的に出席することが奨励される。(ただ、自分が信ずる特定の宗教だけを真理として、これを宣伝することを意図した研究は、当研究室の学風にはそぐわない。)

こう書くと、宗教学研究室は、みながばらばらな研究を個別に行っているように見えるかもしれないが、実態は正反対である。教員、院生、学生間の交流は親密であるし、何よりもみなが、宗教という多面的で奥深い対象をめぐる関心を強く共有している。古代メソポタミア楔形文字資料から当時の宗教事情を読み解こうとしている大学院生が、現代世界のインターネット空間に出現している新世代の宗教性を取り出そうとする学生の研究発表を、真剣な興味をもって受け止め、適切に応答する(そしてその逆も)、といった知的状況が生み出されていること、これが宗教学研究室のよき伝統である。特定の専門領域を深めながら、そこに自閉しないで宗教をめぐる柔軟で広い問題関心を保ち続けること、そしてそれが専門領域の研究に豊かに反映していくこと、これが当研究室の追究する理想である。

こうした学風であるから、国内での研鑽にとどまらずに海外に留学して調査や研究を行う大学院生は数多いし、日本の宗教の研究のために本研究室に留学してくる外国人も少なくない。宗教への関心を共有する、内外を問わず多彩な傾向の研究者や学生が互いに刺激を与え合っていることは、本研究室の魅力の一つだろう。もちろん、専門の研究者になることだけが本研究室に学ぶことの意義ではない。学部を卒業し、あるいは修士課程を修了して社会に出て行く場合にも、本研究室で身につけた、「宗教」を通じて広く深く「人間」を見るまなざしは、陰に陽に大きな糧となることだろう。(そうあることを願っている。)

美学芸術学

本学文学部に美学講座が設立されたのは明治26(1893)年のことであり、以来100年以上にわたり、当研究室は日本の美学研究の世界をリードする役割を果たしてきたが、それだけでなく、日本の芸術文化に与えた影響にもまた大きいものがある。研究者や批評家は言うに及ばず、古くは、ビデオ・アートの父として世界的に知られたナム・ジュン・パイクから、映画監督の中島貞夫、脚本家の倉本聡、さらに近年では作家の小林恭二、映画監督の井坂聡といった若手にいたるまで、様々な人材を世に送り出してきた。

美学は、本来は美や芸術に関わる原理的探求を行う哲学的学問であるが、学問の性質からして、芸術諸ジャンルの具体的なあり方と切り離された抽象的な議論に終始するわけにはいかない。とりわけ近年においては、美や芸術といった概念そのものが、歴史的・社会的に形成され、変容しているものであり、それ自体のうちに西洋近代のイデオロギーを色濃く刻み込んでいるものであるというような見方が出てくるようになり、その成立をめぐる政治的・社会的な状況や、芸術の「現場」におけるその機能の仕方といった問題を具体的なレベルでフォローしてゆくことが強く求められるようになってきている。当研究室では、1971年に美学講座を「美学藝術学」に改組することによって、諸ジャンルの個別的研究にかかわる諸芸術学を包含する形での展開をはかるなど、そういう方向への拡大的な展開をはかってきた。最近の卒業論文のタイトルをみても、ゴジラ映画、『ゲゲゲの鬼太郎』、刺青の歴史等々、狭義の美学の枠に収まりきれない、多様な領域にわたる研究が展開されていることがわかる。

しかし他方で、当研究室の特徴が、そのような「何でもあり」的な個別研究の寄せ集めの世界とはかなり違うところにあることもまた確かである。単に個別的なジャンル史の研究や地域文化の研究であることをこえて、それらの現象を(狭義の「美」や「芸術」には還元できないにせよ)美や芸術に関わる文化という大きな枠組みの中においてみてみることによって、個別研究だけからではなかなかみえてこないような問題系が開かれてくる。音楽や文芸や、はたまた漫画や自然美にいたるまで、これだけ専門の異なる人間が集まっていながら、コミュニケーションが成立し、むしろ畑違いの人間同士でディスカッションをすることで視野の広がりが得られるという関係が成り立つのも、当研究室ならではのことである。また、当研究室の教育においては、伝統的に、とりわけ「古典」とされるような文献の厳密な読解が重視されてきた。ともすると表層的なことがらだけをみて物事を考えてしまいがちな今の状況の中で、あえてこのような世界に身をおいてみることによって、自分自身が知らぬうちに囚われていた固定観念から自由になることができたり、表層的な問題の奥底にあるものがみえてきて、かえって斬新な視点が得られるという体験をすることも少なくない。文化が多様化し、不透明になっている時代である今こそ、原理に立ちかえって物事を考えようとする学問が求められているとも言えるのではないだろうか。

イスラム

イスラム教は西暦7世紀に生まれた比較的若い宗教であるが、古代オリエントギリシア・ヘレニズム、インド・イランなどの文化を吸収・発展させて独自の輝かしい文明を生み出し、ユダヤキリスト教世界、インド亜大陸や東南アジアなどの周辺諸地域に大きな影響を与えてきた。西洋中世哲学や近代科学の発展は、イスラム世界の哲学や科学の影響を無視しては語れない。

イスラム世界の文化は、こうした歴史的意義をもつだけではない。その神秘思想体系は深い精神性を持った人類共通の知的財産として、混迷する現代社会の中で再評価されている。また、西アジアソ連崩壊後の中央アジアなどにみられるイスラム復興を求める動きは、民族問題とも絡んで複雑な様相を呈しており、イスラム教についての正確な理解に対する社会的ニーズは急速に高まっている。

本専修課程は、このような時代の要請に応えて、イスラム教の思想や文化そのものを、主として文献によって歴史的・実証的に研究し、教育活動を行う組織として、1982年、わが国で初めて開設されたものである。

一口にイスラム学とはいえ、その研究対象は広く、イスラム教以前の古詩から、中世イスラム世界の教育制度、現代のいわゆるイスラム原理主義までその対象に含まれる。このため、思想研究とはいえ、その方法も多岐にわたっている。古典的な思想史的文献学的研究はもとより、哲学、宗教学の立場からイスラムを取り上げることも可能である。また法史学や比較法学の立場からイスラム法を研究することも可能である。ただし、どのような研究をするにしても、文献を自ら読む作業を避けていては実証的・批判的な研究態度は身に付かない。そのため本学科においては、必須ではないものの、アラビア語をはじめとする現地語を習得することが望ましい。

学科の性格としては、イスラム文化全般を扱うため、解放性が高いことが挙げられる。学生は、本学科を拠点として、東洋史、哲学、宗教学など、他学科の授業にも積極的に参加し、そこで学んだことを自分の研究に活かす。また逆に、他学科からの授業参加者も多い。この意味において、本学科は、イスラム文化をできるだけ広く学ぶための「場」を提供しているといえるであろう。

留学する学生も多く、その留学先は欧米とイスラム地域で半々くらいの割合である。また、外国からの留学生・客員教授も多い。これも本学科の解放性の高さを表しているといえよう。

全世界のイスラム教徒人口は現在13億人でなおも増加の一途を辿る。既に欧米ではイスラム文化との接触は日常の一部になっており、21世紀はまさに「イスラムの世紀」と言える。日本においても、イスラム研究の重要性が更に増していくのは明らかであり、今後は、日本のイスラム研究を国際的な場でアピールしていくことが目指される。

歴史文化

B群(日本史学)

日本史学は、日本列島の歴史を多面的かつ総合的に考究する専門分野である。研究の基礎は、古文書・記録・史書などの文献史料を正確に読み、内容を批判的に検討し、そこから論点を引き出して歴史像を構成することにある。当研究室の教育・研究システムは、そのための力量を養成することをめざしている。

演習では、文献史料を正確に解読し、優れた先行論文を批判的に検討することが中心となる。講義では、各教員の<史料をしていかに歴史を語らせるか>を軸とした先端的な研究を披露する。最近の日本史学が検討対象とする史料は、文献のみでなく絵画や文学、遺跡や遺物、民俗行事、地図や地名などへと広がっており、こうした広範な史料にも挑戦している。またゼミ旅行、史料調査や各種の研究会など、多様な学習の機会を得ることができる。

現在、研究室の専任教員は7名で、古代(佐藤信・大津透)・中世(高橋典幸三枝暁子)・近世(牧原成征)・近現代(野島[加藤]陽子・鈴木淳)の各時代を担当している政治・経済・社会・対外関係・文化・史料論などの諸分野をカバーするバランスのとれた構成であり、時代の枠を超えて積極的に発言しあう気風をもっている。

東京帝国大学国史学科の伝統を受けつぐだけに、研究室の図書は充実しており、また学生・大学院生から教員までがともに語り合う開放的な研究室の雰囲気の中で、教員・助教や先輩の大学院生から懇切な指導・助言を受けることができる。また、関係の深い部局として東京大学史料編纂所があり、その所蔵する原本・影写本・写真版などの膨大な史料を利用する便宜がはかられるほか、同所員の優れた日本史研究者の指導を仰ぐこともできる。

学部での勉学で重視される卒業論文は、自ら日本史上の課題を設定し、研究対象となる史料群や先行研究と格闘して、オリジナルな論点を積み上げ、それを説得力ある論文に結晶させることになる。その経験は、人生にとってかけがえのない財産になるはずである。卒業後は、マスコミ関係・教職などに就職する者と、大学院に入学して専門研究を続け博士論文の作成を目指す者とに分かれる。

C群(東洋史学)

東洋史学の魅力

東洋史学(アジア史)のおもしろさ、それはアジア社会がもつヴァイタリティー、それと表裏の急激な社会変化、そして今後の世界を変えていく可能性にある。アジアの魅力は、アジア社会に一歩でも足を踏み込んだ経験をもつ者であればすぐに感ずるであろう。喧騒と色彩と匂いのあふれる街路、水と光と草原と雪と日差しの極限から極限までのスペクトル、伝統と現代との整理のつかない混雑…。そのいずれもが、人をアジア社会に引き寄せ、好奇心をあおり、不安感を増幅させ、そして知的冒険心を掻き立てるのだ。

東洋史学が対象とするこのようなアジア社会は、落ち着き安定したヨーロッパ社会とは異質なものである。したがって、その社会へのアプローチも定まったものがあるわけではない。たとえば、佐川教授は都城の遺跡を中心に中国各地や韓国で調査を行っている。吉澤准教授は、沿海部都市と内陸とのギャップから中国全体を見渡している。また、島田准教授はインドのスーラトや東南アジアのジャカルタなど、かつての国際貿易都市を調査し、南・東南アジアと世界がどのように結び付いていたのかを考察する。守川准教授は、西アジア中央アジアの聖者廟や墓地を中心に、宗教と社会の関係を捉え直そうとする。これらのフィールドに、スタッフはしばしば足を運び、場合によっては学生が同行する場合もある。つまり東洋史学専修課程のスタッフも学生も、まずアジア社会の中に入り、体験を積み、アジアを見る目を養っていくという方法の重要性を、認識しているのである。

もちろん東京大学東洋史学専修課程が研究対象としているのは、激しい変化の中にある現代のアジアだけではない。「史記の世界」から「コーランの世界」にいたるまで、多様な文明世界の、古代から現代にいたる歴史が含まれている。東アジア文明の担い手となった中国・朝鮮、いくつもの騎馬民族国家が興亡した内陸アジア、仏教・ヒンドゥーイスラーム文化が入り組む南アジア・東南アジア、そして古代オリエント文明とイスラーム文明が交錯する西アジア、さらに地中海・イスラーム文明と緊密な交渉を保ってきた北アフリカイベリア半島…。これらの地域は約五千年にわたる長い歴史を持ち、膨大な人口と広大な領域を有している。この地域に生きる人々の生活と文化を知ることなしには、世界を理解することはできないはずである。

近代以降の歴史学は、「西洋」=ヨーロッパを中心にして歴史の理論を組みたて、世界史の展開を理解しようとしてきた。実際、上述の多様な地域を「オリエント」ないし「東方」として一括しようとする発想自体、ヨーロッパ社会の自己認識と表裏をなす西洋起源の考え方である。その意味では、「東洋史学」という枠組みは自明のものではない。「ヨーロッパの眼」でアジアの歴史を見ることは、単にヨーロッパのアジア観を歪めてきただけではなく、アジアのアジア観をも歪めてきた。そうした見方に、東洋史学専修課程は安住しない。

では、どのような方法と態度がアジア研究、とりわけ東洋史学研究に必要なのだろうか。そこには、安心して頼れるような確立した「東洋史学研究の方法」があるわけではない。むしろ、それぞれの研究者がそれぞれの方法を模索しながら個性豊かな歴史社会と取り組んでいるところに、現在の東洋史学の面白さがあるともいえよう。しかし、東京大学東洋史学専修課程には、長年の伝統が築き上げてきたいくつかの重要な特色がある。

第一は、方法的・理論的関心の強さである。本研究室の歴代の教員は、さまざまな隣接学問分野の成果を積極的に吸収し、自らの方法視角を明示し、相互の批判をも含めて、学会の方法論争のなかで重要な一翼を担ってきた。したがって、本専修課程に進学する学生にも、方法や理論への強い関心をもつことが要求されるであろう。

第二は、「史料を正確に、厳密に読む」という実証的研究態度である。つまり先人の研究に安易によりかからず、史料と直接に接しつつ、研究方法の妥当性を常に吟味していくという態度が上可欠なのである。そのために中国語・朝鮮語ベトナム語インドネシア語など東南アジア諸語、ヒンディー語タミル語など南アジア諸語、アラビア語・ペルシア語・トルコ語など西アジア中央アジア諸語などを、習得することが推奨される。ヨーロッパ人の旅行記・伝記・報告書や過去の研究を批判的に利用するために、英語・ドイツ語・フランス語・ロシア語などの読解力も必要となろう。教養学部や文学部には、これらの言語を習得する授業が設けられているので、各人の興味にしたがって必要な言語を学ぶことができる。

第三は、研究対象にタブーを設けていないという点である。歴史学にはふさわしくないと勝手に思い込まれてきた、たとえば絵画・服飾・音楽・料理のようなテーマであっても、それを研究対象として選ぶのを妨げることはない。また、「人と物と思想の東西交流」やアフリカ・オセアニアの歴史も東洋史の研究対象となる。現スタッフでは対応できない場合には、そのテーマにふさわしい研究者を紹介できる力量とつながりを東洋史学専修課程は有している。

卒業論文について

東洋史学専修課程では卒業論文の作成が重視される。それは学生時代に全力を傾けて一つのテーマを追究した体験が、その後の人生に必要であり、かつ役立つと考えるからである。東洋史学専修課程の教育の目的は、必ずしも東洋史に関する広い知識を集積することのみにあるのではない。むしろ歴史的情報にじかに接して、自分のものの見方を自力で練り上げてゆく、そうした知的態度・知的誠実さを身につけることが重要なのだ。他人から与えられた器をそのまま使うのでなく、自分で鉱石を掘り出し、自分の工夫した方法で精錬し、鋳造していこう。その結果できた器がたとえ先人のものより不格好であっても、その体験はきっと貴重な感動を与えてくれるにちがいない。そして東洋史学専修課程はそうした態度を高く評価する。

東洋史学専修課程の卒業論文の審査は厳しいという風評を耳にすることがある。しかし、論文の評価の基準は単純である。自分で生の情報に接し、そこから得られた観察を明晰な言葉で論理的にまとめているかどうか、という点が問われるだけである。真摯に取り組めば、必ず評価される。

卒業生の進路

東洋史学専修課程の卒業生は、毎年三分の一前後が大学院へ進学し、他の多くが企業に就職している。就職先は多様で、大手製造業、銀行などのほか、出版・マスコミ関係もほぼ毎年就職者がある。公務員を目指すものも少なくない。

おわりに

東洋史学専修課程に進学してくる学生諸君は、講義や演習、先輩や同級生との討論などを通じ、歴史学には様々な方法があり、様々なものの見方があるのだ、ということに実感をもって気づいてほしい。対象地域を深く研究することは、同時に自分のものの見方を確立していく過程でもある。多様な視角、多様な方法相互の対話を楽しみつつ、新鮮な感覚とたくましい意欲をもって、自分の個性的なアプローチを追求されることを期待したい。

また学部時代は、受け身の学習から抜け出し、研究上で自らの問題を見つけだすとともに、これからの長い人生についての重要な選択を迫られる大切な時期でもある。コーチ役・助言者としての教授や助教、先輩や同級生の集まる研究室での率直な交流は、お互いに大きな刺激をもたらすであろう。研究室にはアジア各地からの留学生も少なくない。本郷への進学後は、積極的に研究室に顔をだし、ここを新しい学生生活の拠点としてほしい。

D群(西洋史学)

西洋史学専修課程の歴史は、1887(明治20)年の史学科設立に始まる。その際、ドイツ近代歴史学の始祖・ランケ門下のリースが中心となって教育にあたり、厳密な史料批判に基づく実証的な研究方法を初めて日本に伝えた。リース帰国後は、箕作元八が世界史的な広い視野で西洋史を体系的に脈絡づける構想の下、わが国における啓蒙的な西洋史学者として積極的にその役割を果たしていった。1919(大正8)年の制度改革で西洋史学科が正式に発足した後も箕作時代に培われた伝統は失われず、時流にのまれない鋭い批判精神のもと、生き生きとした問題意識と厳密な方法とによる本格的な研究への道が準備されていった。その過程においては、戦時下に学問的良心と激しい気骨で自由な研究の伝統を堅持した今井登志喜、「東大紛争」からその後の時期にかけて学部長・総長の要職を歴任した林健太郎らの尽力が大きな意味を持っている。この学風は現在まで引き継がれ、西洋史学科は一貫して権威主義的でない「リベラル」なスタンスを守ってきた。同時に、研究の面においても、戦後まもなく、村川堅太郎(古代ギリシア史)、柴田三千雄らが、日本の西洋史研究の質を欧米と同等のレベルにまで引き上げ、国際交流への道をきり開いた。

こうした伝統を受け、西洋史学専修課程は、現在では文学部屈指の大所帯となっており、在籍する学生の数は、大学院生を含めて合計100名ほどである。院生の存在感が大きいこともこの専修課程の特色であり、教育と並んで研究にも比重がかけられていることを示している。大学院研究生や特別研究員を入れると、院生と学部生の比率は1:1に近く、しかも助手・院生・学部生の間の親密な交流もなされるため、助言を与えてくれる先輩には事欠かない。研究室内の談話室は常に学生同士、ときには教員も加えた議論と交流の場となっている。西洋史学研究室の組織原理を一言で表すならば、古典的リベラリズムということになろう。ここでは他人の邪魔をせず結果に自ら責任を負う限り、最大限の自由が与えられるのである。就職については、マスコミ、一般企業、公務員、教員など極めて広い職種への可能性がある。

西洋史研究をとりまく情況は絶えず変化している。ヨーロッパはEUによる統合などに見られるように絶えず自己革新を進めるダイナミズムを内包させているが、ヨーロッパを対象とする西洋史研究もその動きを反映し、最近では北欧・東欧・南欧にまで研究範囲が広がっている。近年、それらの地域を研究対象とする学生も増えており、研究者を志す者は自分の対象とする地域へ留学し、現地の言語を用いて研究に取り組むのが通常である。現地でのフィールドワークと一次史料に触れる体験はもはや欠かせないものとなった感がある。さらに、海外の研究者を招聘いて、シンポジウム、コロキアム、研究会を開催し、研究交流をはかることも盛んに行われている。

専門化・高度化が進むと同時に多様化している西洋史研究の分野においては、欧米の研究者と同じレベルでの研究が必要なのはもちろんのこと、一方で「日本から見たヨーロッパ」のかたちを示し、これまで見過ごされてきた西洋史の特質を捉えるような日本独自の視点も求められている。

E群(考古学)

考古学とは

考古学とは、人類の歴史を遺跡や遺物を通じて明らかにする学問である。おもに文献を通じて明らかにする文献史学とともに、歴史学の一翼を担っている。したがって、文字のない時代の研究は考古学の独壇場となる。では文字のある時代は考古学の守備範囲でないかといえば、そんなことはない。平城宮跡からたくさんの木簡が発見されて当時の都の様子が明らかになったし、出雲大社では鎌倉時代の社殿の柱が出土して、3本まとめてひとつの柱にしていたという伝承が裏付けられた。エジプトのピラミッドもヒエログリフという文字の時代だが、考古学の研究対象であることは言うまでもない。

では、方法の上で考古学が文献史学と大きく異なっているのは何だろうか。それは、発掘調査によって研究資料を得ることである。上のいくつかの例からもわかるように、遺跡とそこから出土した遺物を分析することが考古学固有の研究方法であり、発見の喜びも加わって考古学の醍醐味ともなっている。そのためには、遺跡を発掘する能力や遺物を観察する考古学独自の能力を身につけなくてはならない。

考古学が扱う分野は多岐にわたる。自然環境と人類とのかかわりを扱う環境考古学、動物との関係の仕方を研究する動物考古学、儀礼や祭祀などを扱う祭祀考古学、民族誌や現存する民族に分け入って考古事象と比較研究する民族考古学など、特定の名を冠した考古学の研究分野もじつにさまざまである。年代測定には炭素14年代測定などいろいろな方法があるが、理化学の分野の協力が必要である。古人骨のDNA分析から親族組織の研究も進んでいるし、炭素窒素同位体比分析から食性の傾向を判断する研究もおこなわれている。考古学は文系の学問というイメージが強いが、理科系の学問とも連動した学際的な文理融合の学問といえよう。

このように考古学の裾野が際限ないほど広がっているのは、人類の活動が世界の隅々まで広く多岐にわたり、森羅万象と関係しあいながら、そして数百万年という長い期間にわたって展開されてきたからにほかならない。

考古学では何を学ぶのか

考古学専修課程の必修科目(括弧内は単位数)は、史学概論(2)、考古学概論(4)、考古学特殊講義(16)、考古学演習(6)、野外考古学(4)、卒業論文(12)である。

さきに考古学独自の方法として発掘調査をあげたが、上のカリキュラムでは「野外考古学Ⅰ・Ⅱ」がそれに相当する。発掘は破壊である。学問の進歩を破壊よりも価値あるものとするためには、遺跡の発掘には慎重に当たらなくてはならないし、そのための手順の習得が必要になる。

遺跡がどのような地形に立地しているのか正確に把握するために測量をおこなうが、それには測量機器を使いこなせなくてはならない。発掘調査の区画設定をおこなったのちに、いよいよ発掘となるが、ただ無茶苦茶に掘ればよいわけではない。どのような堆積状況のなかに遺構が埋まっているのか、土層観察の畦を残し、図面や写真などの記録を残しながら掘り下げる。遺構が完全に掘りあがったらやはり図面や写真をとる。出土した遺物は研究室で水洗いや注記を済ませ、接合して図面や写真、あるいは拓本をとり、発掘調査報告書の形で刊行する。こうした一連の作業のなかで、写真や図面などの記録が重要であることがお分かりいただけただろう。それは発掘調査によって次から次へと失われていく情報のできるだけ正確な記録をとどめておく必要があることと、この記録が遺跡と遺物を分析するための大事な基礎データ、共有の財産となるからにほかならない。

野外考古学Ⅰは、本郷で野外調査のさまざまな基礎的技術を学ぶ。野外考古学Ⅱでは、それを活かして実際の遺跡の発掘調査と整理作業を北海道サロマ湖の岸辺にある人文社会系研究科付属の「北海文化研究常呂実習施設」でおこなう。この発掘調査では、教員から大学院生、学生が一つの施設に寝泊まりし、同じ釜の飯を食べる共同生活がまっている。調査現場をよごさないために大きなスコップで土をまとめて投げる「円匙(えんぴ)投げ」などさまざまな発掘技術が伝授されるし、教員、先輩の垣根を取り払って日頃抱いているさまざまな疑問をぶつけるよい機会にもなるだろう。

このようにして手に入れた遺跡と遺物のデータはそのままではたんなる雑然としたまとまりのない資料にすぎないが、考古学的な手法によって分類、分析されて歴史資料になる。そのための研究方法に、たとえば型式学と層位学がある。型式学は物がもつ年代的、地方的特徴をとらえてその変化を明らかにするための方法であり、層位学は地層塁重の法則や一括遺物という概念を用いて型式の組み合わせや配列を検証する方法である。いずれも編年や地域性といった、人類の歴史を考古学的に明らかにするための基礎作業にかかせない。あるいは物の形態や製作技術からテクノロジーのありようを探るのも、物質文化を扱う考古学特有の研究課題であり、そこでもまた遺物の細かな観察にもとづく分類や同定といった厳密な分析手法を身につけていることが要求される。

「考古学特殊講義」では、こうした考古学の方法論を中心にさまざまなテーマについて講義形式で、「考古学演習」ではすぐれた内外の文献にもとづいて方法論およびその具体的な実践方法を演習形式中心に学ぶことになる。

先に述べたように考古学の守備範囲は広く、地理学、民俗学民族学、生物学、物理学、化学など他の学問分野と交流する。たとえば遺跡立地、狩猟方法、人骨の部位や性別の同定、花粉分析、年代測定など学ぶべき研究分野は多岐にわたっている。もちろん、これらは専任教員だけではカバーできないので、非常勤講師などに依頼して幅広い分野の学習の場を用意している。それでもすべてにわたって講義するのは不可能であるから、書物などを通じて基礎的な知識は身につけるようにしてほしい。

学部3年生までにこのような基礎を身につけたあと、4年生には卒業論文という大仕事がまっている。自らが選んだテーマを深く研究して論文にするのだが、研究史にもとづいて課題と目的を明確にし、分析手法を提示し、資料を収集し、分析し、結論を示すという作業は準備に非常な時間を要する。しかし、この作業は4年間の学業の集大成であり、論理的思考と努力の結晶として一生の財産になるであろう。研究職を希望する方も、就職を希望する方も頑張ってほしい。

大学の外にも考古学を学ぶ場はさまざまにある。各地で行われている発掘調査に、教員や先輩の紹介で参加している人が今も何人かいる。海外に出かけ、調査に参加している人もいる。よその大学や博物館、あるいは埋蔵文化財センターなどで有志が集まり特定のテーマで開かれるシンポジウムに出かけ、現在どのような議論がおこなわれているのか把握しておくのは重要だ。各地の博物館や資料館で、学んだ遺物について実際に見学するのもよいだろう。若いうちは何でもできる。

教員の紹介

佐藤教授の専門は日本の旧石器時代であるが、狩猟に関する国内、国外の民俗・民族調査にも力を入れている。巨漢ならではのパワーに満ちた指導が君たちを考古学の世界に誘ってくれるだろう。設楽教授は弥生時代が専門であるが、縄文時代にも精通している。基本的な土器の研究から精神世界の研究まで幅広い分野を扱っている。今年度着任した福田准教授は、シベリア・ロシア極東・日本列島における土器出現期以降の先史文化について、環境への適応という視点から復元を試みている。石川助教は、中国東北地方の紀元前1千年紀から紀元後1千年紀前半の文化や社会について研究を進めている。

専任の教員ではないが、北海道にある常呂実習施設に勤務する熊木准教授は北海道がおもなフィールドで、サハリン、アムール流域にも調査を広げ、周辺の古代北方文化を視野に入れながら、アイヌ文化の成立過程を追究している。北見市常呂町でおこなわれる「野外考古学Ⅱ」という発掘実習期間中はずっと指導を担当する。

総合研究博物館には西アジアの先史考古学を専門とする西秋教授がいる。同博物館の米田教授は、年代測定や同位体分析を専門としており、講義を通じて最新の考古科学を教授してくれるだろう。学内には大学施設の新設等に伴い事前の発掘調査を担当する埋蔵文化財調査室があるが、調査室には近世江戸の考古学を専門とする堀内准教授がおり、「野外考古学Ⅰ」を通して発掘調査のイロハを指導してくれる。このような方々も卒業論文などの相談にのってくれる。

進学を希望する諸君へ

考古学は広義の歴史学の一分野であるから、歴史関係の講義をできるだけ聞いておいていただきたい。とくに歴史時代の考古学を専攻するには文献史料に対する素養を積んでおく必要がある。先史考古学では、民族学の知識が必要となる。考古学に進学を希望する学生で、外国考古学を志すものは、外国語がすべての基礎になるから、とくにその習得に努めてもらいたい。ただし、日本考古学を目指すものでも、方法論を学ぶためには外国語文献の閲読が必須であるから、重要性に変わりはない。

考古学に進学しようとする学生は、駒場Aセメスターに、必修科目となっている「考古学概論Ⅰ」、「史学概論」の授業を必ずとるように注意されたい。「考古学概論Ⅰ」は本郷で開講されているが、「史学概論」は駒場での開講なので、とりそこなうと、本郷進学後も駒場まで通うことになる。同じく駒場Aセメスターに開講される「人類学概説」は必修ではないが、考古学研究の基礎として重要なので、考古学進学予定者はできるだけ受講されるようお願いする。

卒業後の進路

考古学のカリキュラムは研究の専門家を養成することを目的に組み立てられている。そもそも考古学が一般社会で企業などに直接役立つことはほとんどない。しかしある学問分野を深く勉強し、それを通して人間社会のあり方に独自の理解を獲得し、また卒業論文を計画して論理的な思考のもとに文章を練り上げていく経験、そして常呂での合宿による発掘調査の集団作業体験は一般社会に出ても底力となるであろう。

卒業後、引き続き研究を続けていこうとする人は大学院を目指し、そうでない人は一般企業に就職するのがふつうである。近年の平均の比率は2対3ほどで就職のほうが多い。就職先は、新聞社、テレビ局などマスコミ関係をはじめとして、銀行、商社、運輸、情報、地方公務員などさまざまで、考古学だからという特徴は特にない。マスコミで考古学出身という経歴をうまく生かしている人もいる。

修士課程進学者は多くがそのまま博士課程に進学し、研究を続けるために大学や博物館をめざすことになる。理想を高く掲げてそれに向かって突き進むことは重要だが、研究職につくのが容易ではないことは覚悟しておいた方がよい。専門を活かせる場として都道府県や市町村に埋蔵文化財センターなど緊急発掘調査に対応する組織があるが、この場合は学部卒、あるいは修士課程修了の段階で入る例が多い。しかし、これも最近は需要が減って狭き門となっている。

その他

考古学研究室では独自のホームページを開設しているので、これも参照するとよいであろう。

http://www.l.u-tokyo.ac.jp/archaeology/

遠慮せずに研究室を訪問し、先輩達の話を聞くのが実情を知るには一番である。法文2号館の地下に先輩たちがたむろしているので、一度訪ねてみてはいかがだろうか。

F群(美術史学)

1889年(明治22)、「審美学」の講義題目が「審美学美術史」と改められたのが、東京大学の講義で美術史の名称の初登場らしい。1914年(大正3)に文学部の専修学科のひとつ「美学」に美術史の講座が設置され、3年後には学科名も「美学美術史」と改称されたというから、講座の創設は東京芸術大学に次いで古い。1963年(昭和38)には「美術史学」が独立した専修課程となり、1968年(昭和43)にはそれまでの思想関係から歴史関係の類へと移行した。そして歴史文化学科の中の一専修課程として現在に至る。

この機構の変遷は、学問の性格を物語ってもいる。美術史学はまず美や芸術について考える学問の中に生まれ、しかししだいに美学とは異なる領域を形成し、歴史学の一分野を志向するようになった。美術史学の主要な課題は、現に存在する作品を調査分析して、美術の歴史的展開を具体的に明らかにすることであり、考古学に近い研究態度を有する。もちろん文献史料をもとに遺品のない時代や作者の伝記、美術をめぐる制度や流通などについて考察もするが、その場合でも求められる実証性が、この学問をイメージの歴史学へと向かわせた。根拠のない評論めいた独白はここでは歓迎されない。とはいっても、ある程度具体的実証的でありさえすればあとはかなりの自由を研究者に認める鷹揚さも美術史学にはあり、それが研究室の闊達な雰囲気に結びついている。

東京大学で美術史を学んだ研究者たちは、西洋・東洋・日本の古代から近代まで、絵画・彫刻・工芸のほとんどあらゆる分野で、日本における美術史学の発展に主導的な役割を果たし、国際的に高い評価も得てきた。活躍の場は大学・研究所・博物館・美術館・官庁・ジャーナリズムと多岐に亘る。

現在の専任は、日本中世美術、日本近世美術、西欧中近世美術をそれぞれ専門とする教員3名だが、学内学外の美術史学出身の教員の協力を仰ぎ、幅広い指導ができる。もっとも卒論を含めて学位論文のテーマは、教員の専門と無関係に学生が自由に選択し、きわめて多彩である。進学した3年生は、通常5月に行なわれる関西見学旅行の演習に参加して、実物を楽しみ、よく観察し、それについて調べ考えるという美術史学の基本に触れるが、日常の授業でも博物館・美術館・美術商の見学や、スライド・写真の多用によって、眼の記憶と判断力を豊かにすることが配慮されている。学部卒業で就職する学生は、出版・放送など特に美術史とは関係のない職を得るのが普通である(まれに美術館学芸員になる人もいる)。専門家を目指す人は大学院に進学し、修士課程を修了した時点で、あるいは博士課程在籍中に、全国各地の美術館・博物館に学芸員として就職する例が多い(大学に職を得る人もいる)。

美術史学は大学の中でのみ生きている学問ではなく、社会と密接な関わりを持つ。それゆえ教員は、国・地方公共団体・私立の美術館・博物館の運営評議員や作品購入に関する委員となったり、一般の観客に向けた講演を行なうことも多い。国宝・重要文化財の指定・保存に関する審議会の委員や、老舗の東洋美術史研究誌『国華』の編集委員も歴代の教授が務めている。大学院生は美術館などでアルバイトをするほか、近年は授業の一環として美術館の特別展のカタログ制作を手伝うこともあった。

G群(言語文化)

言語学

言語学研究室の歴史は明治時代にさかのぼる。 明治19(1886)年に「東京大学」が「帝国大学」と名前を改めて発足したとき、「文科大学」にそれまでの「哲学科」・「和文学科」・「漢文学科」に加えて第四の学科として「博言学科」が加えられたのが、日本における言語学教育の始まりである。 ついで明治33(1900)年、「博言学科」は「言語学科」と名前を改めた。明治時代以来、チュルク・モンゴルなどのアルタイ諸語アイヌ語琉球語諸方言、日本語諸方言を含む日本とその周辺の諸言語(中国・韓国・ヴェトナム・台湾原住民語など)を専門とする教授陣が続いたが、他方でインド・ヨーロッパ語比較言語学やアフリカ諸語、そして意味論の専門家も擁していた。

現在のスタッフは、認知言語学や意味論、文法一般を専門とする西村義樹教授、インド・ヨーロッパ語族などの比較言語学と音韻論を専門とする小林正人准教授、モンゴル語学を専門とする梅谷博之専任講師だが、学生・大学院生の専攻する分野はこれらに限られず、自由に選ぶことができる(大学院生の研究テーマについては、当研究室のwebページで「大学院生の業績」を参照)。 当研究室で扱う分野は、音韻、音声、統語法、形態論、意味論、比較言語学(印欧語学など歴史言語学)、社会言語学コーパス研究、手話研究、フィールド言語学、古代言語の解読などである。 これらの、もしくは他のどのような分野を選択するにせよ、学部の間に必修の『言語学概論』、『音声学』、『比較言語学』でしっかりとした基礎を身につけることが必要である。 研究対象となる言語は、日本語・英語・中国語・韓国朝鮮語などの比較的身近な言語から、これらの言語の方言、そしてアジア・アフリカ・南北アメリカ・太平洋地域の、ほとんどその名を聞いたことのないような、そして、今まで誰も研究を試みたことのないような言語、さらにはまた、最後の話し手がごく少数残っているだけで、まさに消滅寸前の状態にあるといえるような言語まで含み、また、古代の言語のようにある程度の資料を残したまま既に消滅してしまった言語も対象となる。 その際に、個別言語の分析でも、あるいは一般的な言語理論を扱う場合にも、一次資料・データに基づいて実証的な議論を展開することが基本である。 データの分析には学生室のWindows, Mac, Linux のコンピュータを使用できるほか、スクリプティングによる分析法の指導を受けることもできる。

学部卒業生の進路の割合は毎年変動するが、最近は約3分の1が大学院進学を目指し、残りが社会に出る道を選んでいる。 就職先は、公務員・放送・出版・一般の商社など、どの学科にも共通する分野に加えて、翻訳や情報技術関係の会社のように、言語学と関係する業種も見られる。 大学院に進学した学生の中には、それぞれの選んだ言語の研究や言語学の特定の分野の研究のために、外国留学する者も毎年出ている。

国語学

東京大学における本格的な日本語研究は、明治中期、帝国大学文科大学に上田万年が「国語研究室」を開設したのに始まったと言ってよい。1897年に設けられた「国語研究室」は、わが国における研究室制度の始まりと言われ、わが研究室は2017年9月に開設百二十周年をむかえたのであるが、開設当初は、単に大学内の一研究室という立場にとどまらず、広く日本の言葉の実情を調査し、そのあるべき未来像を研究する国家の研究機関という性格を帯びていた。日本の国語を研究する国家的な機関という性格から「国語研究室」と称したものであって、学問名、専修課程名に対応させて言うなら「国語学研究室」「日本語学研究室」と言ってもよいところを、現在でもあえて「国語研究室」と称しているのは、設立当初のこの事情に由るものである。

教育組織としても、明治初期の和漢文学科、和文学科以来、国文学科、国語国文学専修課程と名前を変えて続いてきたものが、1975年に国語学専修課程と国文学専修課程に分かれた。その後、わが国語研究室、国語学専修課程は、従来の国語学国文学第一講座(国語学担当)のほかに、日本語を軸として日本の文化を考える日本語文化講座、日本語による情報伝達のメカニズムを研究する日本語解析講座を加えて、日本語の構造と歴史を多面的、総合的に研究、教育する体制を整えた。

95年の大学院化への過渡的措置として94年に文学部の大講座化という組織替えがあり、その際、国文学専修課程とともに「日本語日本文学専修課程」という共通看板を掲げることになったが、それぞれの研究目的、方法の差によって、また学生に課すべき訓練内容の差によって、その後も「国語学」として独立した教育、研究室体制を維持している。なお、大学院の教育組織としては、従来から国文学研究室とともに「日本語日本文学専門分野」を形成している。

国語学の研究分野としては、日本語の言語体系を構成する各領域に対応して、文法論・意味論・語彙論・音韻論・文字論などがあり、言語の広い意味での使用をめぐって、談話分析(文章論)・社会言語学(言語生活論)などがある。また、これらの諸分野の一部または全体を、時間的・空間的な展望において扱う国語史学、方言学がある。また、これらの成果の上に立って、日本語情報処理のための理論的研究や外国人への日本語教育という観点からの研究などもある。

研究組織としては、国文学研究室とともに東京大学国語国文学会を運営し、学会誌『国語と国文学』を広く全国の研究者にも開放して刊行している。国語研究室独自の活動としては国語研究室会を卒業生とともに組織し、毎年数回の研究会を実施している。

また、全国の国語学研究者の学術情報の集積伝達の場として、当研究室には全国のほとんどの研究雑誌のバックナンバーがそろっており、多数の古写本、古刊本を所蔵している。

国際交流の状況としては、大学院生をはじめ、研究生・研究員また特別聴講生等として、海外からの学生・研究者が本研究室に在籍しており、日本人学生とも活発に交流を行っている。

国文学

国文学研究室の歴史は、東京大学とともに古い。明治10年創設時の和漢文学科、あるいは明治18年漢文学科から分離独立した和文学科がその淵源である。和文学科が国文学科と改称された明治21年でも、優に百年は超えている。過去には作詞家としても著名な芳賀矢一歌人佐佐木信綱、国文学研究の確立に功績を残した藤岡作太郎、なども教鞭をふるった。ちなみに、隔年ごとに発行している卒業生名簿は、明治17年から始まっている。卒業生の主な進路先として、一般企業の他、マスコミ・出版社、そして中学・高校の国語教師が挙げられる。また、創作方法を教えるような授業を設けているわけではないが、中勘助川端康成堀辰雄中島敦阿川弘之大岡信橋本治など、多数の作家を卒業生として輩出したのは、日本語の表現にこだわり抜く伝統に由来するのかもしれない。伝統はときに桎梏ともなることは肝に銘じるべきだが、強靭な新しさもまた、伝統の豊穣さ抜きに生まれないのである。

日本語で書かれた「文献」を考究していくのが国文学研究の基本姿勢であり、その対象は、万葉集源氏物語などの古典、あるいは近・現代文学といったいわゆる「文学」にとどまらない。歌謡・能・歌舞伎や近・現代演劇、宗教・思想の言説など、幅広い表現の分野にまで広がっている。そして、その中で大切にされるのが、「本物の文献を見る」という作業である。自ら文献を直接読みこむことこそ、自分の眼で見、自分の頭で考えた、借り物でない思考へとつながってゆくからだ。国文学研究室は、文化財クラスの貴重な写本・版本、和本を数多く所蔵しており、「本物」の文献を研究するのに恵まれた環境にある。

国文学研究室には、上代・中古・中世・近世・近現代の五つの時代別にそれぞれ担当の教員がいるが、複数の時代にわたる授業もある。学部で必修となっている卒業論文については、テーマ設定を学生自身の自由な選択に委ね、教員は助言しつつ、各自の自主的な研究を見守るというのが、学部教育の特色だ。大学院生(毎年約3割の学部学生が進学)に対しては、本格的な研究方法を指導するようになる。研究室所属の院生・学部学生、あるいは卒業生たちが参加する研究会などの議論を通じて、学んでいくところも多い。大学院に所属する留学生は増加の一途をたどっており、彼らは帰国後、それぞれの国の日本文学研究の枢要の位置を占める存在となっている。今後ますます、世界への視野を広げることが求められている。

中国語中国文学

中国語中国文学(中文)研究室の前身は、和漢文学科の創設、すなわち1877年の東京大学設立時まで遡ることができる。しかし、当初、その主たる講義は漢文訓読法であり、中国語による本格的な中文研究・教育の始まりは、20世紀初頭に塩谷温(しおのやおん)が教鞭をふるうまで待たねばならない。

20世紀初頭の中文研究・教育の発展は、変貌する中国、そしてそれに対する日本からの眼差しとともにあった。例えば、塩谷教授が清国留学中の1911年には辛亥革命が起こり、また塩谷の後任教授で、本学の中国語教育の礎を築いた倉石武四郎の学生時代は、文学革命(1917)の真っ只中であった。戦後の中国文学の翻訳・研究界の中心メンバーを輩出した中国文学研究会が設立されたのも、日中関係が大きな政治問題であった1934年である。同会の創設メンバーには作家の武田泰淳や近代中国論の竹内好などがいた。

現在の中文研究室も、国際色が豊かだ。大学院では中国・香港・台湾からの留学生が半数を占め、世界各国の外国人研究員が毎年二、三名は常駐している。そのためか研究室内では日本語のほかに、常時、中国語、英語が公用語のように飛び交う。

こうした雰囲気の中で研究意欲が醸成されるためか、卒業生で大学院に進学するものも多い。学部教育できめ細かい指導がなされているのも、その理由の一つであろう。また大学院には留学生のほか、他学科・他学部・他大学の出身者が多いことも特色といえよう。

研究・教育分野は、古典、現代文学、言語(文字・文法)の三つに大きく分けることができる。扱う範囲はそれぞれ非常に広い。研究室への進学動機も多様であるし、実際、甲骨文字から現代台湾映画まで、教員たちの関心分野も幅が広い。原則は、テクストの背景にある中国語圏文化の特徴を丁寧に調べていくということ。これは、ゼミの雰囲気が、「読む訓練」の学部を経て、「文化的・社会的背景の考察」を要求する大学院、となるように、中文研究室における教育の根幹にもなっている。

「外国語を読む」とは、言語表現の現場を明らかにする行為であり、文章を読むことの奥深さを知る作業でもある。現在の中国や世界各国の文学研究においても、古典文学、近現代文学ともに、各時代、各地域での「読まれ方」をめぐる研究が一つの主流になっている。中国語に触れながら、中国語圏の人々の情念に迫っていくことが、中文研究の大きなテーマであり、魅力なのだ。

インド語インド文学

インド亜大陸では3千年来数多くの言語が用いられ、それらの言語によって伝えられた文献も多様を極めている。そのうち、本研究室(略称「印文」)では、明治34(1901)年に本学で「梵文学講座」が開設されて以来、古典サンスクリット語を中軸とする古期・中期インド・アーリア語をもって著された文献の研究がなされてきた。さらに、平成8年度より、ドラヴィダ系のタミル語タミル文学の講座も設けられ、これにより、専門的なドラヴィタ系語学文学の研究に携ることが可能となった。サンスクリット語はインドの雅語として古典時代の宗教、文学、哲学、科学などあらゆる分野の文献に用いられたものであり、古典インド文化の精華はサンスクリット語によって伝えられたといっても過言ではない。当研究室がサンスクリット語の学習を必須とするのもこのためである。タミル語も紀元前に遡る文献をそなえ、その文学は長い歴史と豊かな内容を誇るものである。

インド語インド文学研究室では、インド文化の形成と発展にもっとも重要な役割を果たしてきた、これらの言語の初歩を学びながら原典研究を行い、あくまで文献に即して、広くアジア諸地域に伝播してゆくインド文化の精髄を探求することを目指している。したがって、研究室名のいちぶともなるインド文学とは、詩歌・戯曲・説話など狭義の文学作品だけでなく、ヴェーダ聖典、マヌ法典・実利論などの学術論書、仏教・ジャイナ教ヒンドゥー教などの宗教文献なども含むものである。

語学の習得と原典講読には相当な時間を要するから、一見迂遠な方法に思えるかもしれない。しかし、広く浅く、場当たり的に多くの書物を読むことによって得られるものは少なく、ややもすると、大学という学問の場にいながら、学問するというかけがえのない経験をせずに大学を去ることになる。異文化理解にしろ自文化理解にしろ、一朝一夕でできるものではない。むしろそれらは、辞書を繰りつつ原典に向かい、個々の単語や行間に思いをはせるという、日々の地道な努力によって可能になるのである。

卒業後は大学院へ進学する者が多い。そのため、卒業に際しては、卒業論文の提出よりは、原典講読の基礎訓練となる特別演習をとる学生が多い。

英語英米文学

英文科の中身は、英語学、英文学、アメリカ文学にだいたい専攻が分かれる。学科としての必修科目をどの専攻からも1科目ずつ履修することをのぞけば、学生諸君はだいたいのところ好みの専攻の勉強に集中できるはずだ。その場合、何々先生のゼミに所属、といった小枠は形式的にも内容的にも存在しないから、学生諸君は自由に自分の方向を試行錯誤することができる。そうして行きつ戻りつ、しだいに思い定めたトピックや作品について卒業論文を書くことが、英文科ライフのいわばクライマックスとなってほしい。卒論は英文30ページ。勉強になって思い出になるだけでなく、英作文からパソコンまでもうまくなってしまうという一石四鳥の事業である。その間、専門の近いスタッフや助教が、書き方や参考書目などについて積極的に相談に応じてくれる。

英語学は、一時期の言語構造の解明をめざす共時的研究と、言語変化の諸相を研究する通事的研究の2分野を含んでいる。おのおのがさらに様々な分野に分かれるが、すべての基礎として、言語の一般的性質・仕組みについて正確な理解をもつ必要がある。一般言語理論と個別言語の実証的研究は相互依存関係にあり、両者あいまってはじめて実質的な興味ある成果が得られるからである。したがって授業では、英語の詳細な事実と、その理論上の意味合いを総合的に把握する訓練に重点をおく。

一方英文学は、そもそも範囲が定めがたいほど広い。その中心となる英米の文学がスタッフによってだいたいカヴァーされている。授業は従来から精読を旨としている。だがそれを踏まえるならば、たとえば英米以外の英語圏の文学を卒業論文などで学生諸君が自主的に研究することは支援されるし、児童文学・大衆文学などのいわゆるサブ・ジャンル、美術や音楽と文学との諸関係などについても、興味を広げてもらってかまわない。またいわゆる社会的、文化的アプローチは当然歓迎される。英米のものを中心とした文学理論・批評理論そのものの研究ももちろん可能だ。

要するにほとんど何をやってもいいのであり、スタッフはそれぞれの関心に応じておもだった作家・作品を扱うが、それをきっかけに自由な道を開く、進取の気性こそここでは多とされる。英文科のこうした自由さが、最近では「批評理論」「翻訳論」などを契機として「現代文芸論専修課程」との連携を深めていることも、ここで特筆しておくべきであろう。

卒業生は出版・ジャーナリズムをはじめ多様な職種でそれぞれに活躍しているが、研究を深めるべく大学院修士課程進学をこころざす諸君も少なくない。大学院進学者の多くは、博士課程進学を目指すが、いずれかの課程において留学する者もさまざまな事情から近年増加している。

ドイツ語ドイツ文学

ドイツ語ドイツ文学研究室における研究教育が目標とするところは、主として、中世より現代にいたるドイツ語ならびにドイツ語による文学作品を対象に、言語としてのドイツ語の構造や特性を捉えること、また、さまざまなテクストを緻密に読み解いていく作業を通じて、そこに表出されている文化的、思想的な意味を考察することである。その領域は、たかだか近世になってようやく成立したドイツ国家の言語ないし文学、ひいてはドイツ人の言語ないし文学にかぎられるものではない。たとえばドイツ系ユダヤ人の文学的営為が、いわゆる「ドイツ文学」のなかに占める位置は、無視できないものがある。民族的な文化現象のもつ収斂的な志向性を顧慮しつつも、ややもすればそこから排除される要素にも、目配りを怠ってはならない。テクストの細部に集中するミクロの視線には、同時に歴史的、空間的なマクロの視野が要求されるのである。そうした理念に沿って、ドイツ語学では、通時的および共時的の両方の視点からの研究が、またドイツ文学においては、中世高地ドイツ語による文学ならびにルターとその時代の思想、近代批評・文学、中・東欧のドイツ語文学、第二次大戦後の旧東独のそれをも含めた文学などに関する研究が、それぞれの方法はさまざまながら、多彩に遂行されている。

五人の専任教員の専門分野は、カリキュラムにおいて広範な領域をカバーできるよう配置されている。ドイツ文学についていえば、地域的にはドイツにかぎらず、オーストリア(そこには、現在は東欧に属する地域も含まれる)も包含し、また時代は中世から第二次大戦後にまでおよび、ジャンルとしては小説、戯曲、詩、評論など、きわめて多彩である。ドイツ語学についても、通時的、共時的の、いずれのアプローチも可能である。

このように書けば、いかにも堅苦しいアカデミズムの場を想像されるかもしれないが、かつて在籍した教員のなかに、生野幸吉、柴田翔池内紀など、詩人、作家、文人の名が見受けられるように、この研究室には、繊細で自由な言語的感性を重んじる気風が伝えられている。そもそもドイツ語というと、それだけで何やら堅い印象を受ける向きもあろうが、それは偏見というものである。グリム童話も、エンデの小説も、ドイツ語で書かれている。ドイツ歌曲の詩も、『ファウスト』も、ホーフマンスタールの流麗な散文も、ドイツ語が紡ぎだしたものである。ドイツ語も例外ではないが、どの言語も、その言語独自のメロディーとリズムを、美しさと緻密さを、柔らかさと硬度をもっている。その意味で、まずはテクストのなかから、ドイツ語が語りかけてくる声を聴きとることが、教員と学生の別を問わず、そして、研究と学習の別を問わず、前提として要求される。そうした認識を共有するかぎりにおいて、学生が自由に、個性的であろうとして、かつそれが許されることが、研究室の特色、雰囲気を形づくっているといえよう。

フランス語フランス文学

フランス文学には社会の中に人間を据えつけ、その行動を通して人間性を探求すると同時に社会と人間との関係を描いた作品が多い。フランス文学研究は必然的に人間と社会についての考察につながるのであって、本研究室(通称、仏文)の初代日本人教授辰野隆は達意の翻訳によってフランス文学の紹介に努めたほか、人間味あふれる洒脱な語り口の随筆と風刺のきいた社会批評によって多くの人々を啓発した。第二次大戦中、渡辺一夫ラブレー研究を手がかりに狂信的な時代を疑い続け、戦後、反人間的な精神のこわばりを批判するユマニスム(人文主義)の紹介によって思想界の一翼をになった。その薫陶を受けた大江健三郎は社会批判を作家活動の中核に据え、さらに尖鋭的な感覚に満ちた独自の小説世界を構築してノーベル文学賞を受賞した。卒業生には作家・ジャーナリズム活動に携わる者が多いが、フランス文学のこのような特徴を反映してか、社会や制度に対する批判的なスタンスを特徴とする人物が多い。

この学風は現在においても継承され、本研究室ではなによりも自由と批判精神とを尊重している。すなわち授業は厳密なテクスト講読の形をとり、自己の解釈を常に辞書や参考文献と対照させて批判的に検討する読解態度を習得することを目的とする。また、個々の学生の自発性は常に尊重され、このような厳密なテクスト読解の方法に馴染んだ上で、それぞれ学生同士で切磋琢磨して考えを相互に検討しあいながらみずからの研究テーマを育て、立派な研究論文に仕上げている。言い換えれば、フランス語とフランス文学を学ぶ過程で、ルネサンス・ユマニスム、近代合理思想、啓蒙思想フランス革命思想など、常に時代を切り開いてきたフランス文学の持つダイナミスムをみずから身につけるのである。

現在、専任日本人教員は5名で、中世文学から20世紀文学までを専門的かつ幅広く学べるようにカヴァーしている。また、外国人教師・外国人非常勤講師によるフランス語の授業も多く、実践的なフランス語の運用能力が獲得できるようにも配慮されている。エコール・ノルマル・シュペーリウール(高等師範学校)をはじめとする数校とは提携関係にあり、毎年大学院の学生から数名を留学生として送り出し、フランスでの博士論文提出者の数は多い。フランスの学界との交流は盛んで、年に10名内外の鋭意のフランス人研究者が研究室を訪れて講演会やセミナーが催されるほかに、提携先からのフランス人留学生はよく本研究室に馴染み、学部・大学院を問わず日本人学生と自主的に勉強会を持っている。

スラヴ語スラヴ文学

本専修課程の母胎は初代主任木村彰一教授の下に1971年創設された「ロシア語ロシア文学」専修課程で、1994年に「スラヴ語スラヴ文学」専修課程と名を改めた。

創設以来本研究室では、中世から現代までのスラヴ学全般を視野にいれ、ロシアおよびスラヴ各地、また欧米におけるスラヴ研究を広く参照しながら、テクストを正確に読み取る力と、テクストの背後にある文化的文脈を理解する力を涵養することを目指してきた。

本専修課程の特色は、中世から近代・現代に至るまでの約1000年に及ぶロシアおよびスラヴ各地の語学・文学・文化を、幅広く視野に入れている点にある。とくに、スラヴ世界の文学研究と言語研究は、車の両輪のように不可分の関係にあるという信念のもと、「スラヴ学」研究という視点が重要であるという認識に立って、スラヴ地域の文学と言語に関する授業を幅広く開講してきた。伝統的には、専任教員の専門の関係から、ロシア文学およびポーランド文学に力を入れてきたが、その他のスラヴ域の言語・文学についても非常勤講師の出講をもって充実させてきた。過去には、古教会スラヴ語、ウクライナ語、チェコ語ブルガリア語、クロアチア語、中世ロシア文学、スラヴ民俗学、ロシア思想史、ロシア音楽文化史など、多様なテーマが掲げられてきた。平成25年度よりは、従来のロシア・スラヴ文学とならび、スラヴ語学とくに南スラヴ語圏言語研究を本専修課程の主要な柱の一つとしている。

本研究室は発足以来40年を経て、学部卒業生は120人を超えた。またその数と重複するが、大学院の修士・博士両課程修了者は100名を上回る。卒業・修了者からは出版・報道・貿易・教育ほか様々な分野に有為の人材を数多く輩出しており、その中にはロシア、スラヴおよび欧米の言語・文学・文化の研究・教育の第一線で活躍している者も少なくない。また国際的な研究交流も盛んで、これまでに韓国、中国、台湾、ロシア、ポーランドから留学生や研究員を受け入れ、そこからは博士号、取得者も出ている。また東京大学ワルシャワ大学、モスクワ大学、ロシア国立人文大学、ベオグラード大学などと学術交流協定を結んでおり、さまざまな形での交流が推進されている。

スラヴ学は広く深い可能性を秘めている。ロシアに関しては、18世紀バロック・古典主義文化、いまも世界に冠たる19世紀ロシア文学ソビエト期を挟む20世紀ロシア等、組み尽くせない多様な研究テーマがある。西欧とロシアにはさまれた「東欧」とよばれる地域には、その複雑で多難な歴史の中から、豊かな言語文化が生み出された。ポーランド文学、チェコ文学、あるいはバルカンの多文化環境から生み出された独自の民族文学、さらには中欧に点在するスラヴ系少数民族の文化などは、それらを生み出した言語のあり方とともに、研究の宝庫であり、二十一世紀の多様な世界を反映して、東欧の文学・言語研究はますます魅力的な様相を呈している。

南欧南欧文学

南欧南欧文学研究室は、文学部のなかでその歴史が比較的新しい研究室の1つである。イタリア政府の要請を受け、前身であるイタリア語イタリア文学研究室が文学部に設置されたのは昭和54(1979)年。初代研究室主任には、当時仏文学研究室の教員であり、イタリア文学の研究にも携わっていた西本晃二助教授が着任した。その後、イタリア語イタリア文学研究室は教育・研究対象の拡充に伴って、平成6(1994)年、南欧南欧文学研究室となり、今日に至っている。ここでいう「南欧語」とは、ラテン語から分化・発達したロマンス諸語のうち、イタリアから南仏・イベリア半島にかけて成立した諸言語を指し、イタリア語のほか、南仏のオック語スペイン語ポルトガル語などを含む。設立の経緯から、現在まで研究室の教育・研究の中心はイタリア語イタリア文学だが、ロマンス諸語全体に関わる講義や中世オック語文学、あるいはスペイン語スペイン文学などの授業も随時開講されている。

イタリア語イタリア文学の研究は、当然のことながらイタリア語の性格抜きには語れない。イタリア語の標準文語は、ダンテ、ペトラルカ、ボッカッチョという13世紀から14世紀にかけてトスカーナ地方が生んだ「三大作家」の用いた言葉遣いに基づいて確立し、その基本的性格は現在まで変わっていない。現代イタリア語をきちんと習得しさえすれば、14世紀から現代に至る、文学作品を含むイタリア語テクストを読み解くことは、さほど困難ではない。これは、イタリア語イタリア文学のもつ特色であり、その研究に取り組むうえでの利点となっている。イタリア文学はその先進性によって、ヨーロッパの他地域の文学に大きな影響を与えてきたにもかかわらず、わが国における研究の歴史は残念ながら浅い。これは明治以来、日本で行われた西欧文化の受容の仕方に偏りがあったことと関連している。現在でも、わが国でイタリア語イタリア文学を専門的に学べる学科・研究室をもっている大学は数少ない。

本研究室では2名の日本人専任教員、1名の外国人教師、および数名の非常勤講師が授業を担当し、なによりもまずイタリア語で書かれたテクストを正確に読解する訓練を行っているが、作文や会話の面でも学生が現代イタリア語の運用能力をしっかり身に付けることができるよう意を用いている。学生は各自の興味に従って卒業論文のテーマを選ぶことになるが、20世紀の作家を取り上げる者が比較的多い。学部卒業生は年平均数人で、1、2名が大学院へ進学する。学部卒業後の進路はさまざまであるが、大学院を修了したのち、イタリア文化の紹介や翻訳業で活躍する者や、イタリアの大学で日本語を教える職に就く者もいる。

現代文芸論

現代文芸論研究室は、2007年4月に発足した新しい研究室です。

長年「西近」の略称で親しまれてきた西洋近代語近代文学研究室の研究・教育内容を基本的に受け継ぎながらそれを改組し、学部の専修課程(定員8名)のほかに、大学院の専門分野を新設してできたものです。

一国一言語の枠を超えて、欧米の近代を中心にしながらも世界の文学を広い現代的な観点から(日本文学も視野に入れて)研究することを目指していきます。日本文学を世界文学の文脈において研究しようとする外国からの留学生も歓迎します。

教員は、沼野充義教授(ロシア東欧文学、世界文学へのアプローチ)、柳原孝敦教授(ラテンアメリカ文学、広域スペイン語圏文学)、阿部賢一准教授(中東欧文学、比較文学)を専任とし、亀田真澄助教(ロシア東欧文化、表象文化論)も授業・学生指導に参加する他、英語英米文学の大橋洋一教授(批評理論)、スラヴ語スラヴ文学の三谷恵子教授(スラヴ言語学、ヨーロッパ社会と言語)、阿部公彦准教授(英米文学、現代日本文学)などの文学部の他研究室のスタッフが授業に協力しています。また、専任がカバーしきれない近代語学近代文学の様々な側面を多彩な非常勤講師が担当し、学生の多様な研究上の関心に応えるようなカリキュラム編成をしています。

誤解のないように強調しておけば、「現代文芸論」という専修課程名はもっぱら<現代文学>を扱うということではなく、<現代的な観点からの>文学研究という意味であり、広く近現代文学全般が研究対象となります。

授業カリキュラムに関しては、他専門分野(欧米文学および日本文学)の授業をかなりの程度まで自由に履修できる柔軟な制度(認定科目制度)が大きな特色になっています。現代文芸論の学生は、3カ国以上の分野にわたって授業を履修し、世界の文学に関する広い視野を養うことが求められます。

具体的には、以下の分野を積極的に扱います。

翻訳論――その理論と実践

批評理論

世界文学へのアプローチ・欧米の一国一言語に限定されない視点からの文学研究全般

越境文学論――亡命文学、クレオール文学、多言語と文学

ラテンアメリカ文学、および既存の専修課程の枠に入らない中東欧などの言語文化

欧米の言語文化をバックグラウンドとした近現代日本文学研究

現代文芸論は、文学部の伝統ある語学文学研究の堅固な土台を前提としながらも、文学研究の新しいあり方を開拓するために開設された専修課程です。ここで扱おうとしている学問は、また完全に形が固まっていない開かれたものと言ってもいいでしょう。このような創成期であるだけに、意欲ある学生・院生の皆さんを迎え、ともに従来の枠組みを越えて開かれた可能性を探求していきたいと考えています。また、普段の授業以外にも、世界の作家や研究者を招いての講演会やシンポジウムなどを積極的に行っています。進学生の諸君は、ぜひ、目の前に開ける未踏の沃野に心奪われ、その開拓者となってください。

西洋古典学

西洋古典学は、古代ギリシャ語ならびにラテン語でしるされたあらゆる文献資料をあつかう。決して狭義の「文学」に対象を限るわけではない。そこで、今日、こうした文献を対象とする学問ならば他にもあるではないか、それらとは異なる西洋古典学の特色は何であるのか、とあらためて問うとなれば、その精髄は、文献学、別名、本文校訂に求められよう。これはテクストを緻密に読み、かつ他の諸テクストのありようとも比較検討して、いっそう正確な校訂を施す知的な作業である。付言するとギリシャ・ローマの作品の写本は、一部例外はあるものの、もっとも古いものでも紀元後1000年をさほど遡らない。つまりオリジナルと写本の間には、じつに様々な誤写・誤った改訂や、善意による混乱が潜んでいるのである。

「学」としての西洋古典学の始まりは、ヘレニズム期のアレクサンドリアに求められる。そしてうんと端折ったいい方になるが、古典古代の書物に取り組んだ一大ムーブメントがルネサンスであった。ちなみに「人文主義」「人文科学」と訳されていることば(たとえば英語の humanism や humanities)は、神学ではない人間の学を意味し、元来それは古典研究であり、古典のテクストの正しい復元と同義であった。以後、古典学は脈々として今日まで続いている。本研究室ではルネサンス期以降の学者が著した古典研究もまた、研究の対象に含めている。

文学部に西洋古典学専修課程が設けられたのは、1963年の改革に伴ってのことである。ただしいうまでもないが古典語の教育は帝国大学の開始に遡るし、新制大学にあっても発足時から、大学院人文科学系研究科に西洋古典学専門課程が設置されていた。

ギリシャ・ローマは現代文明の淵源である、というはやさしい。もしそれに本気で取り組むのならば、ギリシャ語・ラテン語を正確に知ることが要求される。いかなる言語でもその修得は決してたやすくはないが、ギリシャ語・ラテン語はやはり相当に骨の折れる言語であると思う。しかしこれこそ古典の古典たる所以といえようが、ギリシャ・ローマに記された書物は、ことばに信を置き、精緻な技法を駆使した表現力をもっている。それゆえことばを知れば知るほど、着実に対象に近づいていける。そこで学部・大学院を通じてまず訓練されるべきは、歴史的な枠組みを最大限意識しての読解である。

西洋古典学が対象とする分野の広さに比べ、専任教員が2名と余りに少ないけれども、非常勤講師の協力をえながら、ギリシャ語/ラテン語双方の、韻文/散文作品のそれぞれが、各年度ごとにもれることのないように、講義・演習科目は工夫されている。それとともに2~3年のあいだに、なんとか厖大な古典の全容に対しておおまかな見通しがたつように、プログラムは成り立っている。自分が読みたい本を自分が読みたいやり方で読むのではなく、書物に耳を傾けて、たいまつの火をリレーするがごとく、謙虚に本の命を次世代に託す、このことこそ西洋古典学の真髄かもしれない。

H群(心理学)

東京大学(当時の東京帝国大学文科大学)に、元良勇次郎教授によって日本最初の心理学実験場が開設されたのが1903年である。また本学において、心理学が哲学科心理学専修として独自の卒業論文規定を作った年、つまり、東京大学のみならず、日本において、心理学が独立したディシプリンとして旗揚げしたのがほぼ百年前の1904年である。世界的にみても、1879年のヴントによるライプツィヒ大学における世界最初の心理学実験室の開設や1883年のジョンズホプキンス大学における米国最初の心理学研究室の開設と比べてそれほど大きく後れたものではない。また元良教授による最初の精神物理学の講義は実験場開設を遡ること15年、1888年に行われている。

心理学は実に多くの領域と境を接している。心理学は人間の心的、知的な機能を探求するそれ自体独立した基礎的な学問である。また、一方で「こころ」とは何かということを考えると哲学と関わらなければならない。生物学的な諸領域、医学とも密接に関連している。さらに電子工学、情報工学など人間の使う機械を作り、また、人間の機能を代行する機械を作ろうとする領域とも関わっている。本研究室ではこうした幅広い領域に関わる心理学という学問を実験という実証的な手法で取り組む学風を持っており、知覚・注意・記憶・思考などの心理現象を精神物理学的手法・神経科学的手法・認知科学的手法によって研究している。また、文化認識や科学方法論などについても研究を行っている。したがって本研究室出身の研究者は心理学のみならず、先に述べたような幅広い隣接分野において活躍しているものも少なくない。

心理学専修課程に進学した学生は心理学概論により心理学の歴史、基礎的な知見を学び、心理学特殊講義により最新の成果を学習する。また、心理学演習において心理学の原著論文に対する読解力を養成し、内容に関して議論する訓練を行う。さらに心理学実験演習では学生自らが実験者や被験者になることで実験に必要な技術を習得するとともに論文にまとめる訓練を行う。卒業生は大学院に進学するもののほか、官公庁、サービス業、製造業など幅広い業種において活躍している。

I群(社会心理学

社会心理学は,社会的な環境における人々の行動と,その背後にある心的過程,社会文化的な基盤との間のダイナミックな相互規定関係について研究する実証科学である。研究対象は,社会的状況の認知・理解やそれを支える情報処理過程,援助・攻撃・協力・共感性などの対人的行動,規範の形成やリーダーシップ,集団の意思決定などの集団・組織行動,文化・歴史的な影響過程など,幅広い。また,基礎的な知見を,司法をめぐる問題や,高齢化,インターネットなど,現代のさまざまな社会問題や社会現象の解明に応用することもなされている。現在の社会心理学は,他の心理学領域はもちろん,哲学・経済学・法学・政治学などの人文社会科学領域,脳科学・生物学・情報科学などの自然科学領域との活発な相互交流を軸に,人間の社会行動について学際的な議論を行うプラットフォームとしても機能している。社会心理学研究室は1974年に設置された比較的新しい研究室であるが,このような社会心理学の展開の中で,多様な実証的研究を生み出すと共に,学際性と国際性を重視して先端的な実績を上げてきた。

教育に関しては,実験や調査法を中心とする実証研究を行うスキルの養成を重視している。学部教育で社会心理学調査実習,社会心理学実験実習,および社会心理学統計の各4単位を必修化し,仮説検証型の実証研究をインテンシブに学ぶ。複雑な社会現象や人々の行動に関して検証可能な仮説を生成し,それを妥当な操作によって検討するためには,社会現象や行動を分析的に見て,それらに影響している諸要因を抽出し,適切な概念化を行う能力,さらには,統計的分析能力が要求される。また卒業論文では,各自がオリジナルな仮説を検討するための実験や調査を行い,得たデータに基づき「社会の中における私たち」の心の仕組みや,社会現象に関わる社会心理学的要因の働きについて考察を行う。大学院教育では,各教員が行うリサーチ・ミーティングでの徹底した議論のもと,論文執筆・学会発表・学術誌投稿を積極的に行っている。また,国際誌への論文投稿や国際学会での研究発表,国際共同研究を奨励したりするなど,先鋭な若手研究者の育成をはかり,実績を上げている。

研究面では,亀田は人々がどのような社会的意思決定を行うのかを中心に,価値の形成とその働きについて,脳科学・経済学・情報科学・進化生物学の研究者と共に,学際的な融合研究を進めている。唐沢は道徳的判断,他者の心的状態の推論,自己制御を中心とした社会的情報処理過程や,社会的場面での判断バイアスが対人態度や対人行動への動機に与える影響について研究している。村本は,“心の文化差”をもたらす社会環境要因の解明を目指した比較文化研究に携わるほか,現実の組織や共同体をフィールドとして,集団規範や文化の生成・維持過程を探究している。

社会心理学研究の卒業生の進路は,大学院の他,民間企業,情報産業,官庁など多岐にわたっている。配属される部門は,人事,教育,調査,取材,システム・エンジニアリングが比較的多いが,それは実習で学んだことが社会に出て武器となることの証であるとも言える。

J群(社会学

社会学は自分と同時代の、生きて動いている社会と文化に対する関心からはじまる。対象も方法も多彩で多様。現在の専任教員7名の研究テーマは福祉、社会政策、ジェンダー、家族、性、文化、社会意識、人口、社会問題、理論、学説史、都市、地域、住宅、ケア労働、支援など、多岐にわたっている。他に非常勤で、医療、法、記憶、メディアなど、そのときどきに注目されるテーマを適切な外部講師に来てもらって担当していただいている。

研究室は闊達で議論好きな雰囲気にあふれている。学部はおよそ100人、大学院も40人近くが在籍する大所帯だが、基本はゼミを中心とした少人数教育である。社会調査実習やゼミ合宿もあり、負担は重いが、得るものも大きい。院生の指導のもとに自主的な研究会も活発におこなわれており、仲間うちでもまれて大きくなるピアの教育力も、重要な教育資源である。外国人留学生や研究生の数も多く、自然と国際交流の雰囲気が生まれている。

ちなみに過去の学部卒業生の学士論文のテーマをいくつか紹介しよう。

「社会的リスク論の再構成とBSE問題の理論的分析」

「家族は子供の教育にどう関わるのか?――社会関係資本による南米日系人のコミュニティ分析」

「同人誌の社会学――コミックマーケットから見る同人誌市場の成立」

「仕事と家庭の両立の可能性」

「戦争責任論の戦後史と今日的課題」

「介護サービスを提供側から見た外国人介護――労働者の受け入れ」

卒業生の進路は大学院進学、新聞、テレビ、出版、広告、銀行、メーカーなど。他に官公庁や財団、教員などもある。

教育学部

基礎教育学

基礎教育学コースは,名前のとおり,教育研究の最も基礎的な部分を担当する専修/コースであり,広く「人文学的」と呼ばれるような方法で教育という対象にアプローチすることをねらいとしています。私たちのめざす教育研究がどのようなものであるのかを,以下簡単に紹介してみましょう。

ときどき,教育っていったい何なのだろう,などと考えることがありませんか。自分は教育を受けたことで本当に善い人になったのだろうか。教育を受けることで私たちはある傾向を持った人間へと改造されてしまったのではないのだろうか。そもそも教育には,学校やテストに代表される今のようなやり方しかないのだろうか。どうして日本の教育は現在のような混迷した有り様を示すようになったのだろうか……。

もっと身近に引きつけた問いも成り立ちます。なぜ名選手が名監督になれるとは限らないのだろうか。動物の調教と人間の教育は本質的に異なるのだろうか。どうして私は小学校のときいじめられたのだろうか。どうして勉強ができるひととできないひとがいるのだろうか……。こうした疑問をふと感じたこともあるでしょう。

どんな学問も,こうした素朴な問いが出発点となっています。そこから思索を巡らせて少しずつ少しずつ本質的な問題に近づいていくのです。その意味で,こうした問いを持つことこそ,教育について学び始めるのに不可欠な足場を提供してくれるといえます。

私たちの問いは,自分で定式化したものでありながら,同時に時代の刻印を色濃く帯びてもいます。たとえば近年,次のような問題意識を抱く学生が見受けられるようになりました―――「教育と環境問題を結びつけて考えてみたい」「人間が深く生きるために宗教は必要ないのか」「自分っていったい何なのか,もっとつきつめて考えてみたい」「江戸時代って,意外と元気な時代ではなかったのか」「フェミニズムの観点からすると,これまでの教育ってどう見えるのだろう」「親として,教師として子どもをどう教育をしたらいいのか悩んでいる人たちに,私たちはどんなアドバイスができるのだろうか」……などなど。さまざまな人々が時代の中で取り組んできたことと関連づけた問いも浮上してきているのです。

本コースは,このような――もちろん実際にはもっと多様な――問いを持って,教育とか人間とかをもう一度ていねいに考えてみたい,という学生にはうってつけのコースです。また,教育にかかわることを勉強してみたいのだけれど,まだこれだという方向を絞りきれないという人にもぴったりだといえるでしょう。ともかく,教育や人間のことをじっくり考えてみたいという気持ちさえあればいいのですから。

私たちのコースでは,こうした問いを四つの方法で深めていこうとしています

一つは哲学的な方法です。哲学的な方法の基本は,様々な事柄に対して「……とは何か」「……はどうなっているのか」という問いを向けることです。「教育をよくするには,改革するには,どうすればよいのか」という問いは世の中にあふれています。これに対して哲学的な問いは,「よい教育」とは何なのか,「よい」と判断する規準は何なのか,に向かいます。このような問いかけは常識を問い直すことになりますから,その追究は容易なことではありません。そこで,こうした哲学的な問いをとことんまで追究した過去の思想や思想家の胸を借りる思想研究・思想史研究という迂回路をとる必要も生じることになります。

もう一つは歴史的な方法です。物事はそれぞれの歴史を背負って存在するのですが,その歴史的流れを明らかにして読み解くことで,今あるものがより深く見えるようになります。ときには外見とは相当違って見えてくることもあります。そこに歴史研究のおもしろさがあるのですが,そのアプローチをもっぱら教育にかかわる事象に向けるのが本コースの二番目の方法です。

三つ目は人間学的な方法です。教育とその担い手であり対象でもある人間を,人間諸科学の成果を摂取しながら,生きることの,特に人間が変化し生成していくことの意味と条件を考えていくという方向で研究しています。人間諸科学とは精神分析学,発達心理学認知科学文化人類学言語学,精神医学などを連携させた複合領域の総称ですが,広義には環境学,宗教学,生命論,遺伝学,法学,経済学,政治学,公共哲学など人間と人間が作る社会を対象とする学問全般をも指しています。

最後に四つ目は臨床哲学的な方法です。教育というのは,具体的な場面で生じる生き生きとした出来事であり,意図や願いをこめて行なわれる実践です。したがってそこからは,想いどおりにいかない,願いが通じない,といった多種多様の具体的な問題が生じてきます。臨床哲学的な方法は,そのような問題がどのように生じているのかを,ある状況を「問題」と捉える側の構えも含めて解明することをめざします。そうした解明のためには,具体的な場面に自分も参与しながら,その場を生きている人間に即した臨機応変の応答と,人間の存在についての深い洞察が欠かせません。基礎教育学の領域では,この臨床哲学的な方法が教育の「現場」に最も接近する方法だといえるでしょう。

本コースは,こうした四つの方法をよりあわせ,響き合わせながら,独自の教育研究を目指しています。そこで大事にされているのは,わからないことをわからないといい合うことです。そうした姿勢を共有できる人は,ぜひ私たちの学びの輪に加わってください。

比較教育社会学

コースの特色

比較教育社会学コースでは,社会学を中心に,歴史学,経済学,文化人類学などに基づいて,「社会現象,文化現象としての教育」を,国際比較や異文化理解を含めた多角的な視点から,総合的に考察できる学生の育成をめざしている。

今日ほど,教育と社会のあり方が深刻に問われる時代はない。教育抜きには社会のしくみの理解が不可能なほど,教育は現代社会に深く,複雑に組み込まれている。例えば,教育格差の問題,不登校やいじめなどの問題などは,教育と社会との現代的なむすびつきのなかで生起する問題である。

一方,グローバル化に伴う国境を越えた事象,国際協力に関わる教育領域等もまた,重要課題となっている。さらに,高等教育は,その形態,機能,起源の点で,中等以下の教育とは一線を画し,入試や学歴,科学技術・学術政策,専門職養成など,独自の問題領域として広範な広がりをもつ。

こうした状況の中で,教育の社会科学的研究は,事実を直視することから始め,ミクロからマクロまでの広がりをもつ「社会現象,文化現象としての教育」に,理論的・実証的にアプローチする。すなわち,比較教育社会学コースは,複雑化し,多様化し,グローバル化する現代教育の諸相を,社会科学的に解明しようとする学際的なコースである。

コースの内容

比較教育社会学コースは,様々な視点や領域から社会や文化と教育の関係を検討することを目指している。比較教育社会学コースは,ともに教育社会科学専修を構成する教育実践・政策学コースとの連携を深め,さらに多角的・実践的な視点から社会と教育を追究することを目指す。

コースとしては例年,「教育社会学概論」「高等教育概論」「比較教育学概論」「比較教育社会学研究指導」「教育社会学調査実習」「教育のフィールドワーク研究」「教育社会学理論演習」「高等教育の社会学」などの講義,演習を開講し,教育社会学,比較教育学,高等教育研究の基礎的知識や方法論が修得できるように配慮されている。また,英語による専門講義も開講されている。

その中で,「教育社会学調査実習Ⅰ~Ⅳ」は,3年次に全員が履修することになっており,テーマの設定からデータの収集,コンピュータによる分析まで,社会調査の全過程を実際に体験することができる。例年,五月祭には,その調査結果の発表が行なわれている。また,フィールドワークと仮説生成的研究の方法を実習する講義も提供され,様々な方法を用いて社会を見ていくことを学ぶ。これらの実習を通じて,社会学の実証的方法を修得すると同時に,社会的現実に対する鋭い洞察力を自然に身につける学生が多い。

これらの講義,演習のほかに,「教育経済学」「学校」「ジェンダー」「家族」「逸脱」「文化」「教育開発」「エスニシティ」「教育の歴史社会学」などのテーマに関連した授業が開講され,幅広い興味や関心にそった研究を行なうことができる。

卒業論文は必修であり,個々の学生独自の研究成果をまとめる格好の機会となっている。コースの多様性を反映して,ユニークでバラエティに富む力作が多数執筆されている。

教育実践・政策学

教育実践・政策学コースは,教育という現象あるいは作用の本質を「現場」と「制度・政策」の関係を通じてとらえる研究領域です。他のコースが人文・社会・自然科学の個別の方法を重視しているのに対して,本コースは対象に即した現実的なアプローチにより,対象に迫ることを目指しています。ここで「現場」とは,(1)保・幼・小・中・高で展開される教育実践,(2)地域や公民館・図書館・博物館・文化ホールなどの施設で行われる文化活動や社会教育活動,(3)教育法や教育制度,(4)教育委員会文部科学省の行財政政策,そして,(5)地域における市民の自主的,相互的な学びの実践と場,(6)民間の生涯学習や職業教育,遠隔教育などの教育事業,(7)メディアやインターネットを通じた情報環境がもつ不定形の教育作用など,多様な形態のものを意味しています。

カリキュラムにおいては,概論として「教育実践・政策学入門」を学んだあと「教育行財政学」「学校教育学」「社会教育学」「図書館情報学」の4分野で体系的な知識を身につけます。基礎演習と演習では研究と学習の基本技術を修得するほか,学習者自身が現場を経験することを重視しており,見学,実習,観察,調査を日常的に行っています。学芸員や司書,社会教育主事などの資格科目を提供していることも特徴のひとつになるでしょう。

就職・進学先は,大きく教育現場および公務員,民間企業,大学院に分かれます。中央省庁あるいは都道府県,政令指定都市の公務員志望者が多い点も本コースの特徴です。

教育心理学

教育心理学は、心理学の手法を用いて、教育の科学的基礎を実証的に探究し、また、その知見の教育や生活場面への応用まで考える学問である。したがって、本コースでも、心理学の手法と知見にもとづき、広い分野での応用・実践に取り組む研究者、心理技術者の養成をめざしており、特に学部では、人間に関する心理学的理解や、心理学の基本的な研究手法を身につけることを目的としている。教員は、大学院教育心理学コースの教員 (市川伸一、南風原朝和、岡田猛、遠藤利彦、針生悦子、岡田謙介、植阪友理)と、大学院臨床心理学コースの教員(下山晴彦、能智正博、高橋美保、滝沢龍)、大学院教職開発コースの教員(秋田喜代美)、大学院教育内容開発コースの教員(藤村宣之)が共同で学部教育心理学コースの教育にあたっている。そのため、教授・学習、発達、臨床、認知科学情報科学と、人間理解の広い領域にわたる、心理学の知識を身につけることが可能である。また、少人数のコースであるため、学部学生が、教員や大学院学生と一緒に研究プロジェクトを進めるなど、緊密な人間関係のなかで研究活動を進めていけることも、本コースの特徴となっている。

授業は、心理学の幅広い分野をカバーすべく、「教授・学習心理学」「発達心理学」「質的心理学研究法」「創造性の心理学」などの授業が開講されている。ほかに、心理学の研究手法を身につけるため、「教育心理学実験演習」「心理学統計法」などの授業が用意され、これらはほぼ必修となっている。このうち「教育心理学実験演習Ⅰ・Ⅱ」では、教育心理学の研究態度や技法の修得をめざし、学習・発達・臨床・社会などの領域において、各種の実験、テスト、観察、面接、調査を実施し、データを解析、毎回レポートを提出する。このほか、必要に応じて、教育・矯正・福祉・医療施設等の実地見学もおこなっていく。4年次には、こうして身につけた基礎的な技法や知識を踏まえ、指導を受けながら、卒業論文を作成する。卒業論文では各自が関心にそったテーマを選ぶことができるが、文献研究にとどまらず、実験・調査・観察・テストなどの方法によって自分でデータを集めて分析をおこない、それにもとづいて考察することが求められる。これは、教育心理学が実証を重んずる学問であることの反映である。

身体教育学

いじめ,不登校,殺傷事件,小動物の虐待など,学校教育現場では子どもの深刻な問題が続出し,「心の教育」あるいは「心の健康」が叫ばれている。一方,肥満・やせ願望,いつも「疲れた」「眠い」と訴える児童・生徒の増加,スポーツ過熱に伴う障害の多発,薬物乱用,喫煙の害など,子どもの心とからだにまつわる様々な問題が発生している。また,高齢者社会の到来と科学技術の発展に伴って,中高年の運動不足と生活習慣病,高齢者と転倒・骨折事故・寝たきり,環境ホルモンのからだへの影響,マスターズスポーツのあり方など,からだと社会,からだと環境の視点で対応しなければならない社会問題も増加している。

このような学校,家庭,社会に存在する「身体(からだ)と心」に関わる様々な教育事象について,幅広く基礎的・総合的・実践的な立場で教育・研究を行うのが身体教育学である。そして,身体教育学は,健全な身体形成を図り,健全な身体観とスポーツ観を育み,自分自身の「身体(からだ)と心を育む」ことに主体的に立ち向かい実践していく意識と行動力を育成することを目標としている。

1998(平成10)年4月,我が国で初めて誕生した「身体の教育」を主眼としたコースである。

その教育理念は

  • からだの理(ことわり)を知る
  • からだ,健康,生命の大切さを知る
  • からだを動かすことの楽しさと喜びを知る

に集約される。

教養学部

教養学科

超域文化科学

超域文化科学分科は、文化人類学表象文化論比較文学比較芸術、現代思想、学際日本文化論、学際言語科学、言語態・テクスト文化論の7コースで構成されている。

本分科の最大の特色は、その名が示すとおり、さまざまな学問領域や地域的境界、文化ジャンルを超えたダイナミックで横断的な学際性・総合性である。伝統儀礼や民族芸能といった個別文化に固有の事象から、異文化間の交流、高度に情報化された社会におけるグローバルなレベルでの芸術や文化、マルチメディア・コミュニケーションの問題、さらには、これらのテーマの根底に横たわる言語活動や思想にいたるまで、その研究領域は極めて広範囲にわたり、それぞれの専門分野の研究を深めつつも、つねに開かれた視座で「文化」を考察する姿勢を失わず、いわば「学際的専門性」をもって新たな「文化」研究の領域を拓くことを目指している。

また、具体的な対象に即した実地の作業が重視されているのも本分科における研究活動の大きな特色である。フィールドワーク、現場での調査や実習、さまざまなテクストや図像の綿密な分析、あるいは実験をとおして得られた知識や体験を、言説による理論化の作業のなかにとり入れ、理論のための理論に終わらない活き活きとした教育・研究を実践することが目標のひとつとなっている。

そのために、本分科の母体となっている大学院総合文化研究科言語情報科学専攻および超域文化科学専攻に所属する多数の教員が協力して、その広範かつ多彩な研究分野、幅広い実際的経験を生かしたカリキュラムが各コースで組まれている。

地域文化研究

本分科は、「イギリス研究」、「フランス研究」、「ドイツ研究」、「ロシア東欧研究」、「イタリア地中海研究」、「北アメリカ研究」、「ラテンアメリカ研究」、「アジア・日本研究」、「韓国朝鮮研究」の9コースから構成されています。各地域の特質を歴史学政治学、経済学、社会学、哲学、文学、言語学などの研究方法を使って多角的に学び、広い視野に立って全体を見渡せる人材の育成をめざします。「地域文化から世界へ」を基本姿勢とする一方で、「世界から地域文化へ」の方向性も重要なテーマです。本分科に進学した学生は、9つの地域のいずれかを入口として研究を始めますが、その地域文化・社会で出会った問題を考察するのに最もふさわしいディシプリンを選んで卒業論文にまとめていくことになります。また、地域文化を研究するには言語に熟達することが不可欠です。そのため、外国語の習得にも重点をおき、多くのコースでは卒業論文を指定された外国語で書くよう定めています。

卒業後の進路は、就職先としては、商社、金融、製造業、運輸、出版・報道・放送、官公庁、国際交流機関など、多岐にわたります。地域文化研究の教育によって培われたグローバルな視点、学際的な視野、高度な外国語運用能力が、各方面で高く評価されています。さらに研究を深めることを希望する者は、その多くが大学院総合文化研究科地域文化研究専攻に進学しています。

総合社会科学

総合社会科学分科は、教養学部総合社会科学科を前身とし、「相関社会科学」、「国際関係論」の2コースから構成され、社会科学の総合的研究とその現実社会・国際社会への適用をめざしている。両コースのカリキュラム(必修科目要件など)は異なるが、ともに従来の社会科学(経済学・法学・政治学社会学など)の成果を尊重しつつも、その縦割り的な制約を超えて、グローバル化する現代社会の諸問題に対してディシプリン横断的にアプローチしようとする点で共通している。このような社会科学の総合性を研究・教育の両面で実現するために、両コースは密接な関連をもっており、両コースにまたがって授業を担当する教員も多く、学生も両コースの授業を聴講することができる。

なお、進学振分けは総合社会科学分科として一括して行われるが、進学生は内定後にいずれかのコースを選択することになる。

統合自然科学科

数理自然科学

数理自然科学コースでは、様々な数理的概念の理解を深めるとともに、広く自然現象の背後にある数理的構造を学びます。そして、自然科学を統合的に理解しようとする動機のもとで学んだ高度な数理的考えや手法を様々な分野に生かせるようにします。
自然科学は、大学の入試科目でも、研究者の属する学会でも、物理、化学、生物のように分けられています。しかし、本来、自然現象そのものにこのような分類はありません。近年では、境界領域にある現象を複数の分野の研究者が考察することも珍しくありません。特に、現象の背後にある数理的側面に着目するとき、対象の個々の性質が関係なくなることもあります。そして、多様な自然現象を理解しようとする営みから新しい数学の問題が生まれることもあります。
このような状況に対応するため、数理自然コースでは、数学と自然科学の両方についてしっかり教育します。具体的には、物理、化学、生物の自然科学に関しては、各人の嗜好に応じて、必要なことは完全に習得できるようになっています。数学については、解析、力学系、確率論、数理物理などについて数理科学研究科の教員によって、演習つきで徹底した授業が行われます。また、毎学期少人数セミナーがあり、研究へ向かう道筋がひらけていきます。

物質基礎科学

我々の住む世界は、そして、我々自身も、全て物質から出来ています。この物質世界の仕組みを自然科学的に理解し、また利用することにより、今日の科学技術社会が成り立っています。今日では、物質科学に対する社会の要求も益々高度化かつ多様化し、既成のカテゴリーの教育プログラムではそれらに十分に応えられない状況が生じています。統合自然科学科の物質基礎科学コースは、原子、分子、高分子、結晶、新材料、生体といった様々な階層の物質の物理学あるいは化学を、学生諸君の志向に応じて、深く、且つ広く学び、ミクロからマクロの様々なスケールに渡る物質世界に対する、新しい時代のニーズに対応できる人材を育成します。すなわち、従来の物性物理学、原子核物理学、素粒子物理学、物理化学、有機化学無機化学などの分野を全てカバーする充実した教育プログラムが用意されているだけではなく、さらに、それらの境界領域、領域横断的なところに位置する新しい科目を加え、学生諸君の選択の幅を広げてあります。本コースでしっかり学ぶことにより、物理学的な指向性、化学的な指向性、いずれの学生諸君もその希望を十分かなえられるだけでなく、他の諸学科では決して得ることのできない領域横断的プログラムを学ぶことにより、新しい時代をリードするユニークな人材に育つことを我々は確信しています。

統合生命科学

研究者としての「厚み」をもたらす、他学部には見られない複合的アプローチ

「統合生命科学コース」は、生命の様々な階層における秩序、構造、機能、法則性とそれらを統合する生命システムの成り立ちを把握し、生命科学のフロンティアを開拓することのできる人材を育成します。そのためには、若い時代に広い範囲の学問を修得し、研究者としての「厚み」を備えておく必要があります。

本コースでは生化学、分子生物学、生物物理学などを駆使し分子を対象とする研究から、発生・細胞生物学、生態学、脳・神経科学複雑系生物学、構成的生物学といった細胞や個体を対象とする研究に渡る幅広い分野についての知識、実験手法が学べます。ノーベル生理学・医学賞を受けたオートファジー研究が開始された場であったことが象徴するように、本コースでは、流行に捉われない独創性の高い基礎研究が行われています。卒業研究ではそうした研究を行いながら、生命科学分野にまだ多く残されている疑問に取り組み、明らかにするための思考力や技術力を身につけます。

理学部、農学部、薬学部などには見られない複合的アプローチが可能な点も統合生命科学コースの特徴です。文系学科、学際科学科や、本学科の他のコース・サブコースの科目も一定数自由に選択することができ、卒業時に主(メジャー)専攻と、副(マイナー)専攻を修了することが可能です。

統合生命科学コースの特徴

統合生命科学コースには、ライフサイエンス研究の若き研究者が集結し、生命科学のフロンティアを開拓しています。統合生命科学コースの特徴は、主に次の3つです。

1.ノーベル賞研究に象徴される先端性

統合自然科学科は、ノーベル生理学・医学賞の受賞者を輩出した、東大で唯一の学科です。東京大学 特別栄誉教授である大隅良典先生は、統合自然科学科の前身である基礎科学科を1967年に卒業されたあと、1988年に助教授として教養学部に赴任されました。そのときに、駒場にある3号館の研究室にて、ノーベル生理学・医学賞を受けたオートファジー現象を発見されました。これは、駒場キャンパスにある自由な学風の中で、流行にとらわれない独創性の高い研究が行われたことによる成果です。

現在の駒場キャンパスにおいても、この自由な学風が息づいており、若き教員たちが柔軟な発想で、先端的でチャレンジングな研究テーマを選び、学生たちと一緒に日夜研究に励んでいます。大隅先生が駒場に着任後にノーベル賞研究を開始されたのは40代のときでした。現在の統合生命科学コースには、この年代の教員が非常に多く所属しており、言葉には出さないかもしれませんが、心の中でひそかに、第2、第3の大隅先生を目指して、熱心に研究と教育に取り組んでいます。親身になって学生を指導するのみでなく、教員自らが現場に立って実験をしている研究室も多いです。本当の「最先端」研究をやりたければ、自由な学風で、若手教員が多いところが良いはずです。統合自然科学科の統合生命科学コースは、真の最先端を目指す学生にとって最良の選択となります。

2.本郷の理系諸学部に匹敵する多様性

統合自然科学科では准教授が独立した研究室を運営できるため、統合生命科学コースには26もの研究室があります。その研究テーマは次のように極めて多様で、多岐にわたります。

  • 理学的な基礎研究  分子生物学、細胞生物学、生化学、植物生理学、など
  • 医学的な研究    神経科学、内分泌学、など
  • 薬学・工学的な研究 創薬への応用、など
  • 農学的な応用研究  物質生産、バイオテクノロジー、など
  • 融合領域研究    生物物理学、数理生物学、生物情報科学、など
  • 実験や理論などのアプローチ法も多彩

4年時の卒業研究では、これら26の研究室の中から一つを選ぶことになります。基礎から応用まで、しかも幅広い分野の中から好きな研究室を選ぶことができます。統合生命科学コースの定員は20名ですので、学生数よりも教員数(研究室の数)が多いことになります。こんなにも教員から手厚く指導を受けられる学科は、東大の中でも唯一と言えるでしょう。

また、これらの研究室はすぐ近くにありますので、様々な共同研究も可能です。新しい分野を切り拓くような研究をしようと思ったら、既存の学問領域にとらわれず、複数の学問領域を融合することが必要になってきます。純粋に生命科学を学んでいるだけでは、新しい生命科学を開拓することはできません。創造とは組み合わせであると言われます。すぐ隣に、自分とは少し違うことを考えている人たちがいる環境ならば、そのような創造的組み合わせは容易になり、自分では意識しないうちに、全く新しい研究を始めているかもしれません。統合自然科学科の統合生命科学コースでは、そのように新しい分野を創造できる環境を提供しています。

3.一流の研究者を育成するための基礎教育の充実

最先端の研究を展開できる一流の研究者となるためには、まずは生命科学の基礎をしっかりと身に着ける必要があります。統合生命科学コースでは、講義、実習、セミナーの3本柱を通して、基礎知識、基礎実験技術、プレゼン技術などを習得できます。

講義については、最初に、生命科学の基本である細胞生物学、分子生物学、生化学を学びます。また、当コースの特徴である先端性・多様性を象徴するように、他学科では見られないような、生命科学関連の多岐にわたる講義が開講されます(生命科学概論、生命科学研究法、発生・再生生物学、バイオイメージング、生命の多様性、生物物理学、光生物学、生体高分子科学超分子生体システム論、構成システム生物学、脳神経科学、など)。これらを4年生になるまでの間に、自由に、好きなだけ履修することができます。この他に、統合自然科学科にある他コースの講義(物理、化学、心理学、スポーツの講義)や、すぐ隣にある学際科学科で開講されている情報系の講義なども容易に履修でき、一定数までは卒業単位として認定されます。

実習は3年時から開始されます。3年生のSセメスターでは、週3日の実習を通して、生命科学実験の基礎技術を習得します(ピペットの取り扱い、DNAや大腸菌の取り扱い、遺伝子変異導入法、タンパク質の発現・検出・精製、HeLa細胞の取り扱い、酵素反応速度論など)。3年生のAセメスターでは、週3日の実習を通して、統合生命科学コースにあるほぼ全ての研究室における研究を体験します。当コースには、上記の「2.本郷の理系諸学部に匹敵する多様性」の項目に記載したように、非常に多岐にわたる研究室があります。これらの研究をほぼ全て体験できる学科は、この統合自然科学科 統合生命科学コースにしかありません。3年生Aセメスターの半年間を通して、自分が希望する研究室を考えます。そして4年生からは、希望する研究室に配属されて、週5日間、最先端の研究を行います。学科発表や論文執筆を行う学生もいます。

セミナーについては、2年時はオムニバス講義を行い、統合生命科学コースにある各研究室で行われている最先端研究の内容を紹介します。3年生のSセメスターでは、英語論文の読み方を学びます。輪講形式で、半年間に約5本のじっくり論文を読み、論文の構成、論文の読み方、および論文の書き方等について詳細に学ぶことができます。これを通して、学生自身で論文を読むことができる技術を習得します。3年生のAセメスターでは、実際に学生自身で論文を読み、PowerPoint等のスライドを作って論文の内容を発表するセミナーを実施します。これにより、大学院の研究室で日常的に行われている論文紹介セミナーでのプレゼンテーション方法や資料の作成方法などを学ぶことができます。また、スライドを使ったプレゼンテーション方法の習得は、4年生や大学院生になったときに最新の研究成果を学会等で発表するときに、そのまま活用できます。

このように、統合生命科学コースでは、一流の研究者を育成するための基礎教育に力を注いでいます。多くの学生は学部卒業後に大学院(総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系)に進学し、素晴らしい研究成果を挙げています。また、プレゼン技術などの習得は、一般企業に就職する際にも極めて重要です。

統合自然科学科の統合生命科学コースでは、新しい生命科学を開拓したいという気概に満ちたチャレンジングな学生が進学してくることをお待ちしています。

認知行動科学

理系カルチャーに半身を置きつつ心理学の人文的問題全般を扱う

心理学は伝統的に文系学部に属してきました。しかし、心の解明に対する多彩な現代的アプローチを学ぶには、理科的な手法で文科的な問題に立ち向かい、文理の垣根にとらわれず貪欲に知を追求する姿勢が大事です。認知行動科学コースは、理系カルチャーに半身を置きつつ心理学の人文的問題全般を扱う、世界でもまだ珍しい21世紀型の心の学びの場です。
本コースでは、心の働きを総合的に把握するとともに、発生と適応の観点からも学びます。文科・理科生が半々である特徴を生かし、予備知識の多少によらず心の実証研究の本質が自然にわかるような授業展開がなされ、互いに高め合ううちに様々な学問分野間を横断する学際性豊かな知識が身に付きます。現代社会への視点と実証科学マインドとのバランスがとれた心の科学の専門家を育てるのも本コースの狙いです。
主な授業科目には、進化認知科学、認知臨床心理学、神経行動学、心理物理学といったテーマをはじめ、認知行動科学の諸領域を扱う「コース科目」があります。「研究法・方法論・実験I・実験II」と並ぶ必修科目では、小人数で心理学実験法と実践を学び、最先端の手法を身に付けます。「特別研究・卒業研究」を通じて指導教員とともにひとつの研究を完成させます。「他コース科目」では、学融合プログラム「進化認知脳科学」「バリアフリー」等で学べる関連講義や、他学科科目を主体的に履修でき、自身の興味に合わせて多彩な履修計画を作れます。心の先端研究をいっしょに学び究めていきましょう。

学際科学科

A群

科学技術論

科学技術は、自然を独自の方法で解明・活用し、社会の諸分野に大きな変化を生じさせてきました。その営みは、人々に恩恵をもたらすと同時に、自然と社会を急激かつ大規模に変化させることで、深刻な問題も生み出してきました。

本コースでは、自然科学の基礎的な理解と人文社会科学に関する幅広い知識に基づき、科学技術が現代社会に提起している問題を深く検討し、積極的な提案をなしうる人材を養成します。すなわち、科学技術を、歴史的、哲学・倫理学的、社会的な観点から分析し、科学技術の社会的文化的文脈やその政治的倫理的な含意を考察します。そして、現代社会において科学技術がどのような役割を果たしているのか、また社会に恩恵をもたらす科学技術であるために、今後、どのような方向に発展していくべきかを探求します。学問分野でいえば、科学史・技術史、科学哲学・技術哲学、科学技術社会論、応用倫理学などが教授されます。授業では基礎知識を学ぶ「概論」と批判的思考能力及び調査・表現の手法を学ぶ「演習」が中心科目として開講され、特定のテーマを扱う特論科目も取ることができます。

本コースの開講科目には以上の学問分野が含まれますが、このほかにも他コースや他学科の教員によって、ほとんど全分野にわたるさまざまな科目が開講されており、本コースの学生はそれらを関心に応じて単位取得することができます。ただし、語学(英語、独語、仏語など)と自然科学の各科目から、ある一定の単位数を取得することを要請しており、語学力と自然科学の基本的な素養を重視しています。また卒業論文を課しており、勉学・研究の成果を卒業論文に集約してまとめることを重視しています。

本コースの学生は、その関心に応じて、かなり自由に学ぶことができます。たとえば、科学史に重点をおいて、科学史関係の科目や科学史に必要な自然科学の科目を集中的にとることも、あるいは応用倫理に重点をおいて、倫理に関係する科目や倫理的に問題になりそうな自然科学の科目(たとえば生命科学脳科学情報科学など)を集中的にとることもできます。自由に学べるということは、逆にいえば、しっかりした履修計画を立ててどの科目をとるかを選定することが望ましいことを意味します。自分がもっている問題関心に沿ってどのような履修計画を立てていくかは、コースの教員に相談し決めていくことができます。

卒業生の進路は、官公庁、報道、出版、金融、教育、製造業などさまざまです。毎年数名は大学院に進学します。総合文化研究科で科学史、科学哲学、科学技術社会論を専攻する卒業生のほかに、東京大学内の他の研究科や、他大学の大学院に進学する卒業生もいます。

地理・空間

都市・農村問題、開発と環境、国土再編と地域社会、国際分業と地域経済、高齢化社会と居住環境といった現代社会の重要な問題群は、具体的な空間を舞台に、生態環境や歴史環境を含む個々の場の地理的背景と密接に関わりながら展開しています。本コースでは、地理学をはじめとする空間諸科学を基盤に、地理情報システム(GIS)、フィールドワーク、空間デザインといった調査・分析ツールを習得させつつ、空間による社会の制約、社会による空間の構築・再編という視点から現代社会の諸問題を論理的に思考し、政策や計画立案といった実践的・応用的能力をも備えた人材の育成を目指しています。

カリキュラムの構成では、地理・空間基礎論I・IIから、国土デザイン、都市地域デザイン、農村地域デザイン、社会経済地理学、都市地理学などの分野別の科目、アジアの自然と社会やヨーロッパの自然と社会などの地誌科目というように幅広い科目を提供するように配慮しています。また、地理情報分析基礎I、IIにより、統計資料の分析や地図作成などの分析技法の実習にも力を入れています。

本コースの大きな特徴の1つは、内定生時と3年生時の2回、国内の特定の地域で行われる野外実習(フィールドワーク)への参加が必修として課される点にあります。事前にゼミ形式の演習で十分な準備を行うとともに、調査の成果は『野外実習報告シリーズ』として印刷をしています。農家や工場でのヒアリング、宿舎でのミーティング、報告書の作成など、苦楽をともにした経験は、後々まで大切な思い出・貴重な糧となるでしょう。また本コースでは、各自が独自にテーマを設定し、野外調査や一次データの分析にもとづいて作成する卒業論文が重視され、実践的な調査や研究の能力に磨きをかけることになります。

卒業生の進路は、金融機関、商社、運輸・通信、製造業、報道・出版、研究所、官公庁、政府機関など多岐にわたっています。また、大学院に進学し、大学や研究機関で研究を続けている卒業生も少なくありません。

B群

総合情報学

情報技術の目覚ましい発展とともに、大量で多様な情報から真に必要とする情報を効率良く、偏りなく安全に、かつ人間に負担をかけずに抽出あるいは生成し、人間社会の幸福や安心安全、さらには文化の保全発展に役立てることが急務となっています。そのため、自然現象から文化現象、経済社会現象に至るまで、あらゆる領域に共通する情報の本質を捉え、かつ最新のIT技術を駆使しながら、情報の価値判断、分析、創造、伝達を自由に行える人材の育成は、高等教育の場に課せられた重大な責務です。この要請に応えるべく、文理を横断した、さらには文化芸術までをも包含する総合的な情報学を体得し、多様な分野に展開できるような人材の育成を本コースでは行います。

上記のような、文理を横断し、文化芸術までをも包含する総合情報学の教育研究を実現するために、本コースでは、計算機アーキテクチャ・通信ネットワーク、ソフトウェア・プログラミング言語情報理論離散数学自然言語処理人工知能認知科学、画像処理、CGアート、メディア論・情報文化論、情報経済学に至る、情報に関連した幅広い領域の専門家により教育を行います。学際性を強化するために、本学科の専任教員だけでなく、大学院情報学環・学際情報学府、情報基盤センター、教養学部教養学科の関連する教員もスタッフに加わっています。

  • 教員数にくらべて学生数が少なく、緻密で丁寧な小人数教育が行われます。
  • 本コースを卒業するために必要な84単位のうち、必修科目の単位数は33単位(卒業研究を含む)と比較的少なくなっています。必須科目により、文系を指向する学生であっても、理系的な情報リテラシーを身につけて、文理を横断する総合情報学を体得してもらえるようになっています。
  • 理系的な科目と文系的な科目をバランスよく履修してもらえるように、選択必修科目(15単位)が導入されています。
  • 選択科目については、本コースで開講される講義のみならず、本学科他コースや本学部他学科、他学部の科目も卒業に必要な単位として認定されます。
  • 多様な人材の育成をめざす本コースの特徴は進学枠にも反映され、理科生のみならず文科生にも進学の枠が設けられています。

広域システム

本コースでは、数理科学の知識やシステム論的思考を身につけるとともに、宇宙や太陽系の構成と挙動、地球の変動過程、大気科学、環境化学物質の特性、生物多様性の基盤となる生態系、進化、自然エネルギー、環境エネルギー政策などについて、高度な専門性と広い視野をもった人材を養成します。そのために、物質・エネルギー循環を学ぶ環境科学などの基礎科学や、宇宙や太陽系の構造、地球の変遷過程、大気海洋の大循環、およびこれらの変動や人間活動に対する地球環境の応答を理解する基礎科学としての宇宙・地球科学、さらに、地球環境の基盤となる生物多様性を理解するために基礎科学としての生態学や系統学、進化学を修得します。また、それらの基盤となる科学を理解するには、一定レベルの数理科学の理解や情報処理技術も必須です。これらの知識体系を正しく理解し身に付けた上で、自然科学の個別の学問領域だけでは解決できない複合的な問題に対処できる知識と技術を身に付けることを目標とします。

本コースの開講科目は、上記の分野の知識を習得するために必要な、多様な講義が用意されています。これに加え、他コースや他学科の開講科目を、各自の関心に応じて受講することが可能となっています。さらに、地球圏環境科学実験、生物圏環境実験、環境計測実験3科目の実験、フィールドワークを主体とした地球圏・生物圏環境科学実習、基礎数理演習が必修科目として開講しており、単に知識の学習のみでなく基本的な実習や演習を通じて技術を習得することを重視しています。また、卒業研究では、各研究室に1年間配属され、それまでに学んだことを基礎にして、個別のテーマにより研究を進めて卒業論文を作成します。

本コースでは、それぞれの学生の選択した専門分野を中心に、国際的課題である地球環境やエネルギー分野の幅広い知識の習得が可能なカリキュラム構成になっており、その知識を生かして国際的に活躍できる人材が育つことを期待しています。

教養学部PEAK

国際日本研究コース

国際日本研究コースは、「学際性」と「国際性」という東京大学教養学部の理念を踏まえ、人文科学・社会科学の諸理論とその適用方法を幅広く習得し、日本と東アジアの文化や社会を、国際的かつ学際的な視点から学ぶコースです。また、英語コースではありますが、一定水準の日本語能力の習得も重視しています。

卒業生は、国際機関、日本あるいは母国の民間企業・官庁・ジャーナリズムなどでの活躍が期待されますが、4年間の学習経験を生かして、東京大学大学院総合 文化研究科の各専攻を初めとする日本国内外の大学院で、より専門的な研究に従事する途も開かれています。なお、同研究科には英語による授業のみで学位取得可能な大学院プログラムである国際人材養成プログラム(GSP:Graduate Program on Global Society)も開設されており、同プログラムへの進学も可能です。

国際環境学コース

国際環境学コースは、「学際性」と「国際性」という東京大学教養学部の基本理念を踏まえ、環境という複雑な問題を多面的に研究する文理融合系のコースです。環境政策倫理学、法学に加え、生物多様性保護、地球化学サイクル、地球物理学、最新の環境技術等を、先端科学および工学の観点から学びます。地球規模に拡がる環境問題に多様な視点からアプローチすることによって、持続可能な社会の構築と発展に寄与することを目標としたコースです。そのために、本コースでは自然科学と人文・社会科学をともにカバーする「文理融合」的なカリキュラムを提供し、両方の分野に通じた幅広い人材の育成をめざしています。

卒業後は、国際機関、日本あるいは母国の民間企業、官庁、ジャーナリズムなどでの活躍が期待されますが、4年間の学習経験を生かして、東京大学大学院総合 文化研究科の広域科学専攻を初めとする大学院で、環境・エネルギーに関するより専門的な研究に従事する途も開かれています。なお、同研究科には、英語による授業のみで学位取得可能な大学院プログラムである国際環境学コース (GPES: Graduate Program on Environmental Sciences) も開設され、同プログラムへの進学も可能です。

工学部

社会基盤学科

社会基盤学A

「最先端の自然科学を駆使して人と地球の明日を創る工学」
「技術力を武器に世界に羽ばたくシビルエンジニア」

人々の居住や移動や通信を可能にし、快適な都市空間を創出するとともに、都市を災害から守り、危機に瀕した自然環境を蘇らせる。自然と人間の望ましい関係を保ちつつ人間の生活を支える基盤技術の重要性は、社会が変革期を向かえている今、世界規模でますます高まっています。人や自然が何を求め、どんな問題を抱えているのかを敏感に感じ取り、技術を通して次代の文明の創出に貢献する。設計・技術戦略部門は、そのようなシビル・エンジニアの養成することを目指しています。

社会基盤学B

「国土・地域・都市のトータルデザイン」
「自然と社会をつなぐ構想力で政策・計画・マネジメントを実現するシビルエンジニア」

わが国を含む多くの国々において、国土・都市の整備に関わる合意形成を含めた高度なプランニング、都市や地域のサステイナブルなマネジメント、自然・産業・文化が渾然一体となった国土のデザインなど、さまざまな価値観や手法を総合的にコーディネートしながら的確に問題を解決すると同時に、将来のビジョンを提示することが求められています。政策・計画コースは、個々の施設や空間の計画・デザインはもちろん、専門分化した各技術を総合して国土や地域・都市のビジョンを描くことのできる人材の育成を目指しています。

社会基盤学C

「持続的で活力ある国際社会を創る実践的知識の体系化」
「国際社会をリードするシビルエンジニア」

現在、わが国の国内経済は曲がり角を迎え、グローバルスタンダードが押し寄せてくるとともに、環境問題のように地球全体で取り組むべき課題も山積しています。これからは、地域社会で貢献できる人材とともに、国際社会で活躍できる人材が求められています。世界銀行アジア開発銀行ユネスコなどの国連機関、国際的なNPOや企業グループなど、日本人が活躍すべきフィールドは世界に大きく広がっています。そんな国際社会で活躍できる日本人を輩出することが、国際プロジェクトコースの目的です。

建築学科

建築学の扱う範囲は極めて広く,社会とのかかわり合いも密接である。民族の遺産である古建築および集落の保存や復元,現代都市の象徴である超高層建築の開発,生活基盤となる住宅の生産や維持保全,我々の生活を脅やかす地震・火災・台風等に対する安全性の確保,快適な生活条件をつくるための冷暖房設備等の開発,そして都市の建設や再開発など,建築学は,人類が生活を営む上で欠くことのできない衣,食,住のうちの一つを分担している。建築学は,いうまでもなく建築をつくるために必要なあらゆる問題をとらえて研究する学問である。したがって,工学部に属しているが,人間生活を容れるものであるという意味で,技術的な問題の他に,社会的,経済的,心理的問題が取り扱われ,造形的,芸術的分野をも含んでいる。

すぐれた建築を完成するためには,すぐれた材料,技術,芸術的技能が必要であって,そのための研究が行われる。しかし,それらの単なる寄せ集めだけで,すぐれた建築ができるわけではない。そこで,建築学の中には,これら多くの分野をいかに総合するかという問題が含まれるのである。海外の建築界では,技術の開発・応用や材料の選択等を仕事とするエンジニアの職能と,造形を主として建築の総合を仕事とするアーキテクトの職能とが分かれ,教育課程も二分されている例が多いのであるが,わが国の場合はその両者が一体となっているのが大きな特徴である。

都市工学科

都市環境工学

世界の都市人口は07年に世界人口の半数を超え、世界的に見ると今後は都市部への人口集中がさらに加速すると予測されています。このため、都市における人間活動が世界的な環境に及ぼす影響が無視できない大きさになる一方で、脆弱(ぜいじゃく)な都市インフラは都市環境悪化の原因となっています。
都市環境工学コースでは、都市の環境問題をグローバルな視点からとらえ、都市からの地球環境への負荷を削減し、環境に優しい都市づくりを目指すとともに、都市内部の居住環境を改善するため、環境のモニタリング手法の改善や環境改善のための新 しい技術の開発に取り組んでいます。

都市計画

都市計画コースでは、時代とともに変化する都市の状況と課題に対応して、工学技術にその基盤を置きつつ、社会科学・人文科学の研究アプローチも援用しながら、多角的観点から研究を進めています。
都市や都市を取り巻く農山村を含め、人間の生活空間の全体をどう作り、維持管理・改善するかという課題に取り組むため、都市や国土空間に関わる問題を、幅広い視点から総合的にとらえることを特徴としています。都市形成の仕組み、都市空間のデザイン、自然との共生等に関わる環境デザイン、広域圏の計画から都市・地区レベルの計画立案手法、都市の安全に関わる計画・対策、住宅問題・住宅政策、都市交通計画、都市空間に関わる人間行動の解析手法などを講義と演習を通じて理解していきます。
研究は基本的には9つの研究室を単位としています。詳しくは「研究室紹介」をご覧下さい。

機械工学科(機械工学A)

教育について

機械工学科は、設計・生産技術全般を対象として、基礎工学と生体工学、環境工学ナノテクノロジー、医療工学などを融合して、産業システム全体に貢献するとともに、地球規模の環境・エネルギー問題を考慮し、技術・人間・社会などの総合的視野に立って、ものを造り、価値を生み出すことを追求する学科です。豊かな可能性を秘めた機械工学の将来を担うべき若い柔軟な頭脳を持った人材を、社会に送り出すため、学部教育は機械情報工学科とともに機械系二学科一体で運営されています。このように機械系は、社会の基盤をなす機械工学分野の研究と教育を強力に推進することによって、安心・安全・健康で豊かな生活を実現し、世界の文明・文化の進歩に貢献する科学技術を発展させ、これらを支える技術者・研究者を育成することに日々邁進しています。
2年生A1A2タームから3年生S1S2タームでは、数学、熱工学、流れ学、材料力学、機械力学などのいわゆる機械工学の基礎科目を勉強するとともに、設計・製図、スターリングエンジン設計演習、ソフトウェア演習、機械工学実験などの実践的トレーニングを経験します。3年生A1A2タームから4年生にかけては、機械工学の先端・専門的な講義、ものづくりのための創造性を養う演習が設けられています。4年生に進学すると同時に各研究室に配属されて卒業論文の研究に着手し、各人が問題解決能力を積極的に養うことになります。

カリキュラム

2年冬から3年夏にかけて、数学、熱工学、流れ学、材料力学、機械力学などのいわゆる機械工学の基礎科目を勉強するとともに、設計・製図、スターリングエンジン設計演習、ソフトウェア演習、機械工学実験などの実践的トレーニングを経験します。産業実習で企業での短期就労経験を積んだ後、3年冬から4年にかけては、機械工学の先端・専門的な講義、ものづくりのための創造性を養う演習が設けられています。4年生に進学すると同時に各研究室に配属されて卒業論文の研究に着手し、各人が問題解決能力を積極的に養うことになります。

機械情報工学科(機械工学B)

カリキュラムの前半(二年冬から三年夏)には、実世界でモノを作り上げる基盤的な知識となる数学、四力学(材料力学、熱力学、流体力学、機械力学)、機械設計などを学びます。後半(三年冬以降)では、知能情報処理、メカトロニクス、ロボット、各種機械のコンピュータ制御、といった機械と情報の融合に加え、ヒューマン・インタフェース、医療・福祉、神経と脳、などの人を知る講義が充実し、人間と機械と情報の融合という新しい道を追求する内容となっています。
講義だけではなく、実際の設計や製作に必要な知識や経験を習得するために演習も非常に充実しており、特に三年生冬学期の演習では、午後のほぼ全ての時間を費やして、画像処理、マイコン、シミュレーション、コンピュータグラフィックス、ロボット製作・制御・行動プログラミング等のスキルを獲得します。演習の最後には、習得したスキルと知識を活用して、企画、設計、製作から発表までを学生自身が自主的に行うプロジェクトを実施します。
4年生になると全ての学生は研究室に配属され、上記の講義演習で獲得した知識と経験を基盤とし、卒業研究に取り組むことで、世界をリードする成果を生みだすことを目指していきます。

航空宇宙工学科

学部教育課程

周知のように、航空宇宙技術は、その展開速度が早く、技術集約の度合いが高いのが一つの特徴です。対象とする航空機についていえば、小型低速の軽飛行機やヘリコプタからジャンボジェット、超音速旅客機まで、宇宙機では、小型の気象観測用ロケットから衛星軌道上の有人実験室、あるいは太陽系の縁にまで旅しようという宇宙探査船まで、またこれらの推進装置について見れば、小型のピストンエンジンや大型ターボファンエンジン、ラムジェットエンジンから、一基の推力が数千トンで持続時間が数十秒の巨大な化学ロケットや推力は数グラムながら持続時間は年で数える電気ロケットまで極めて多様化し、それぞれ進歩しつつあります。

また基礎となる学問分野からいえば,航空宇宙工学の他に計測、通信、情報、計算機、信頼性工学など、多くの学問分野の統合の上に成立っています。航空宇宙技術の急速な展開は、これら新技術の発展に先導的な役割を果してきました。それゆえにまた,技術集約型の産業国であるわが国にとって、発展が要請される分野の一つになっています。

航空宇宙工学科における専門教育は、しかし、航空宇宙技術者の養成のみを目指しているわけではありません。

航空宇宙を教育のための統一的な題材に採りつつ、広く技術者および研究者としての基礎教育を行なうことを目的としているのです。限られた期間の専門教育で最も効果的な教育を行なうために、当学科の学部学生は前記の2専修コースに分けられ、基礎工学から卒業論文、卒業設計までの標準科目の履修によって、それぞれの分野が形成する技術のピラミッドの底から頂きまでの概貌が把握できるようになっています。

技術のピラミッドの一つを把握することこそが、新しい技術を開拓しようとする者への基礎教育として最も効果的な方法であると、私たちは考えているのです。

進学後のコース振分け

航空宇宙工学科へ進学した学生は、まず、航空宇宙工学に関する基礎科目を学びます。その後、3年の冬学期からは、2つの専修コース

  • 航空宇宙推進コース
  • 航空宇宙システムコース

に分かれ、学部卒業まで、各々のコースに関してより専門的な内容について深く学びます。
各コースへの振分けは、3年の6月末に実施する希望調査に基づきますが、いずれかのコースに定員を超える志望があった場合、教養学部における成績と2年冬学期における成績を総合し、順位付けを行ったうえで決定されます。

精密工学科

少人数講義によるきめ細やかな指導。
材料、加工から機械、電気、システムまで、
RT(ロボテク)とPT(プロテク)の基礎を幅広く学びます。

精密工学科のカリキュラムは、機械物理・情報数理・計測制御の基礎工学を土台として、精密工学の柱であるメカトロニクス・設計情報・生産の3分野を中心に構成されています。2年後半から3年にかけての専門科目では、基礎工学の学修をふまえ、豊富な演習を交えて領域工学の知識と方法論を徹底的に習得。3年夏休みのインターンシップ、その後の輪講や工場見学を経て4年進級と同時に研究室に配属され、1年をかけて卒業研究に取り組みます。

電子情報工学科・電気電子工学科

初期の進学振り分けコースとカリキュラム

最初に選択するのが2つの学科です。
両者はまったく異なる分野を学ぶわけではなく、あくまで以下のどちらの領域を重点的に学ぶかで選択します。

  • 電子情報工学科 主に情報系の科学と技術に重点をおいて学び始めます。
  • 電気電子工学科 主に物理系の科学と技術に重点をおいて学び始めます。

最初はそれぞれの必修科目を中心に学びます。
必修科目は学科による違いがわずかにありますが、意欲のある学生がすべての科目を履修できるよう時間割を設計してあります。
さらに3年夏学期になると必修の講義科目はなくなり、自分の興味に応じた履修ができます。

5つの履修コースとカリキュラム

3年冬学期からは5つの履修プランに分かれ、共通する基礎技術を応用に結び付けていく技術を学びます。中でも横断的な「システム・エレクトロニクス」には、どちらの学科からも進むことができます。各履修プランに定員はなく、それまでに学んできた経験を踏まえ、自分が希望する履修プランを選ぶことができます。

  • 情報的領域 「メディア情報・コンテンツ・人間」「コンピュータ・ネットワーク」
  • 横断的領域 「システム・エレクトロニクス」
  • 物理的領域 「ナノ物理・光量子・バイオ」「エネルギー・環境・宇宙」

こうした学習を経て、4年次には卒業研究を行う研究室を選択します。研究室の選択はまったく自由で、3年次までの経験からもっとも自分に適したテーマを選ぶことができます。

物理工学科

物理工学科が目指す「既存の物理学や工学の枠にとらわれない新しい学問領域や産業を開拓する事」を実現するため、物理工学科に進学した皆さんは2年生後半から卒業までの間、以下のカリキュラムに沿って学びます。

「物理学そのものを極めたい!」「応用を積極的に目指したい!」、物理工学科ではどちらも思う存分チャレンジできます。 異なる視野を持つ一方で物理学という学問を共に楽しめる仲間が出会い、これらのカリキュラムを通して相互作用する事で、既存の物理学や工学の枠にとらわれない新しい学問や産業を開拓する気運が生まれると考えています。

物理工学に配置された皆さんは、2年の後期と3年の1年半をかけて、数学と物理をみっちり学びます。 2年の後期は基礎固めです。偏微分方程式の形にきれいにまとめられている物理学の基本法則を理解するための数学を学びます。 物理学は、電磁気学、熱力学の再整理をしながら、量子力学と統計物理学の学習を始めます。

3年、4年では、多体系の量子論、量子統計物理、固体の物性を量子力学によって理解する固体物理学、光学、流体力学と、弾性体物理学、レーザーや非線形光学などの量子エレクトロニクス、量子情報物理を学びます。

物理学の新しい課題として、見逃せないのが生命科学への応用。それを意識して、多数の自由度が階層をもって強く絡まり合う系を扱うソフトマターの物理、さらに生物物理学の講義を用意しています。
物理工学科では、計数工学科で開講されている計算機科学、情報理論、数理工学など量子情報技術の基礎としても重要な講義の相乗りを行っています。これらの講義と平行して、実験と演習があります。
演習では問題を実際に解く訓練をします。3年前期の応用物理実験で物理実験の基礎技法を学び、3年後期の月曜日は3回で一つのテーマに取り組むプロジェクト方式の実験を各研究室の先端的な設備を使って行います。
4年になると各研究室に配属されます。一人または二人でペアを組んで一年間卒業研究に取り組み、その結果を卒業論文(卒論)にまとめて全教員と学生の前で発表します。卒論の課題は、それぞれの研究室で現在世界を相手に行われている最先端の研究である。卒論では新しい野心的な研究テーマが与えられる事が多く、これまでにも世界的な研究が多数出ています。

計数工学科

計数工学科は、分野や業界に依存することなく、数理と物理の観点から、工学一般で普遍的に役立つ概念や原理を習得する学科です。ユニークな学科名は「計測+数理」に由来します。大学院では、情報理工学系研究科の2つの専攻に分かれ、先端的な研究を行います。 計数工学科は、物理工学科と共に科学技術の要となる「応用物理系」を構成しています。数学と物理をベースに情報の概念や情報技術を加え、電気・機械・材料といった個別対象分野に依存しない「普遍的な概念や原理の提案および系統的な方法論の提供」を目指しています。学科には、

  • 現象の本質をモデル化し問題解決手法を創り出す 「数理情報工学コース」
  • 実世界を正しく認識し望みの機能を実現する 「システム情報工学コース」

という互いに相補的な関係にある2つのコースがあり、数理的なアプローチで、ロボット・脳科学・ナノ・バイオなど先端科学技術はもとより医用工学や金融工学など幅広い学問分野への展開に関して、世界のトップレベルの研究が行われています。

マテリアル工学科

マテリアル工学A

バイオマテリアルは、失われた身体の機能をできるだけ正常に近い状態に回復させるために利用するマテリアルで、人工臓器、検査診断、薬物・遺伝子治療再生医療などで利用されます。本コースは、細胞・DNA・タンパク質といった生体の機能としくみの理解、マテリアルのナノプロセッシング技術の開発、ナノスケールでのマテリアルの機能・構造解析を通して、目的の機能に応じた人に優しいバイオマテリアルの創製と、それを用いた医療システムの構築を目指しています。

マテリアル工学B

21世紀は「環境の世紀」と言われています。社会を支える様々な製品や構造物が地球環境や資源消費に及ぼす影響は多大であり、それを支えるマテリアルの高性能化が重要です。本コースは、マテリアルの機能発現に向けた材料開発、プロセス設計、信頼性設計を基に、地球規模の環境を考える上で必要なライフサイクルアセスメントや、環境調和性の定量的評価を通して、「ECOの時代」を拓く新しいマテリアルとプロセスの創出を進め、環境問題解決に取り組んでいます。

マテリアル工学C

窒化物半導体グラフェンカーボンナノチューブのように、新たな機能を有するマテリアルの開発は生活を大きく変えるインパクトをもたらします。現在では、原子・分子レベルで物質の構造を制御するナノテクノロジーを活用して、これまでにない革新的な機能を持つマテリアルを創製できるようになりつつあります。本コースは、広い視野でナノ・機能マテリアルの研究開発をリードし、豊かな社会を実現することを目指しています。

応用化学科

カリキュラム

応用化学科のカリキュラムは基礎学問の修得に一番力を注いでいます。
化学、物理学、数学…。たとえ環境、エネルギー、情報、バイオに進もうとも、研究と開発に最も必要で有用な技術とテクニックは、実は、基礎学問なのです。時代のトピックスは、大学院以降、一人立ちしてから学んでも十分に間に合います。生涯にわたり、めまぐるしく、激しく変化する科学と技術の世界で、研究者・技術者として使命を全うするために、学部教育で身につけた基礎学問は、諸君の貴重でかけがえのない資産になると確信しています。

時間割

応用化学科では多岐にわたる分野の研究を行っています。2年生(駒場第4学期)ではまずどの分野に進もうとも通用する自然科学の基礎を学び、「根」を築きます。3年生では専門科目や学生実験を通して、専門性の高い知識や基本的な実験スキルなどを身につけ、しっかりした「幹」を築きます。 2,3年生の講義・実験は、化学・生命系3学科の教員が協力して行い、基礎科目から専門性の高い知識を階層的に学び取れるような工夫がなされています。第一線で活躍している人を産・官より講師として招き、企業での研究開発の最前線や科学政策などに関する講義も行っています(「フロンティア化学」など)。また、講義の一環として工場見学も行っています。化学・生命系3学科の共通講義以外にも、他学科・他学部の講義も履修可能です(10単位までは卒業に必要な単位の中に算入できます)。 4年生になると、これまでに築き上げてきた「根」「幹」をベースに応用化学科が誇るスタッフ陣のもとで最先端研究(卒業論文研究)を進めながら、実践的な「実」のある教育が行われます。

化学システム工学科

学部教育は、講義、演習、実験、卒業論文からなり、特に、輪講やグループ研究による学生参加型講義、講義と組み合わせた演習、余裕のある学生実験、学生の自主的取組を促す卒業論文を重視しています。

カリキュラムの内容は、物理化学、量子化学、化学反応論、有機化学無機化学などの基礎化学、化学工学、反応工学、プロセスシステム工学、環境システム工学などの化学システム工学基礎に分類でき、環境調和型化学あるいは化学技術を新しい概念で実現するための「化学システム工学」に関連したテーマで卒業研究を行います。特に成績優秀な学生には工学部長賞が授与されます。

化学が関与するミクロからグローバルまでの現象を、それぞれの構成要素のシステム化ととらえる能力を備えた学生を育てる教育体系となっています。学部卒業後はほとんどの学生が大学院修士課程へ進学します。

早期から社会との接点を持ち、学習・研究のモチベーションを上げることも重要です。学部3年生には、化学・生命系3学科合同で、毎年、企業4~5社を回る工場見学を実施しています。北海道班、東海班、九州班など地域別のチームに分かれ、それぞれの地方の大手企業の工場を見学します。この授業では、見学後のレポート提出で1単位が与えられます。修学旅行的なわきあいあいとした雰囲気がありつつも、専門的な説明を受けることができ、とても好評な授業です。

また、2年生のAセメスターと3年生に対しては、単位の履修状況や学生生活等について学生が教員に直接相談することができるコンタクトグループを形成しています。時には、食事を共にしたりしながら、気軽に相談することができます。

教職員と学生の距離感が自然と近くなるのが、化学システム工学科の特徴の一つです。

化学生命工学科

私たちが目指すものは,有機化学と生命工学の融合による
「新物質・新機能の創造」です

−生物をお手本にした優れた化学反応の創成やプロセスの構築,化学の力を借りた生命現象の解明や従来にはない高機能人工蛋白の創造−

これら次世代のサイエンスやテクノロジーは,従来独自に発展してきた「化学」と「生命」の研究領域が工学的センスの上に融合した「化学生命工学」においてはじめて築くことができます。 化学生命工学科・化学生命工学専攻においては,有機化学から生命工学までの”分子”を共通のキーワードとする幅広いスペクトルの研究・教育を行っています。

化学生命工学における「化学」

化学者は,自然界に存在する分子を手本に自然界にはない方法でこれをつくりだすことができます。あるいはまた,自然界にはない機能や美しい構造を生みだすこともできます。化学合成はいまや自然を超えた創造を可能にしています。化学生命工学の「化学」の領域では,高効率,高選択的な新しい有機合成・高分子合成の方法論を開拓し,それを基に,自然を凌駕する優れた機能を有する超分子・超材料の創造を目指しています。

化学生命工学における「生命」

発生と分化,エネルギー生産,細胞内外の情報伝達,免疫などの生命現象を分子レベル・素反応レベルでとらえるとき,その精妙さ・美しさには唯々畏敬の念を持つばかりです。現代のバイオテクノロジーはその精妙な生命現象を人工的に操作できるまでに至っています。化学生命工学の「生命」の領域では,化学を有力な武器として生命現象を分子レベルで解明することを基盤としつつ,従来の工学システムとの連携をもはかることにより,自然を凌駕する生命分子,生命システムの創造と応用を目指しています。

システム創成学科

システム創成A

環境・エネルギー問題は、人類が直面している最も難しい問題のひとつです。人間の生活や経済活動に必要なエネルギー源をどのように確保し、そのエネルギーをいかに環境と調和させて活用するのか、本コースでは先進的な科学技術の手法を駆使してこれらの課題を解決し、将来の日本を牽引できる真のエリートを育成することを目指しています。環境とエネルギーに関する画期的なシステムを創成して、いっしょに世界をリードしましょう。

システム創成B

情報とシミュレーション、そして生命原理をコアとしたカリキュラムを用意しました。これにより、乱れや不確かさに直面したとき、システムの機能を維持しつつ高い回復力を有し、安全で生活を豊かにしてくれるレジリエントなシステムを、生命、生物が有する適応・学習・進化・自己修復などの優れた能力を規範にしつつ、デザイン、開発、イノベーション、マネジメントすることができ、システム的な思考をもって複雑な課題にチャレンジするリーダーを育てます。

システム創成C

本コースでは、古い縦割りの学科の概念を越え、理系と文系という古い分類をも打ち破った教育を目標に、デザインテクノロジーとテクノロジーマネジメントの教育を行います。情報技術、モノ作りの基本技術から、マネジメントまでの幅広い教育を行うことにより、新しいプロダクト/サービスや産業を創出し、環境、行政、福祉、金融などの国際社会における複雑な問題を解決できる新しいエンジニアの養成を目指しています。

理学部

数学科

数学というと,教科書にある定理や公式を知識として丸暗記し, それを使って計算して問題の答えを出す機械的な作業だ, という印象を持つかもしれません。 しかしそれは大きなあやまりです。 数学で本当に大切なのは,定理や公式の「意味」を考え, その背後に潜む「原理」や「真理」を理解することです。 数学はこのような体験をとおして, ものごとを深く考えることの喜びや楽しさを教えてくれます。 数学の勉強では,まず基本的な論理や推論形式を学ぶことが求められますが, その本当の醍醐味は,常識を覆すような斬新な発想がひらめけば, それまで想像もできなかったような新理論が生まれ, いまだかつて誰にも答えられなかった問題が解決されることです。 数学は創造性に富み,驚きや感動にみちた営みであり, 日々発展を続けています。

数学科に進学すると, 19世紀,20世紀に著しく発展した現代数学の基礎を学ぶことになります。 数理科学研究科大学院に進学すると, さらに進んだ勉強をし,研究への道を歩むこともできます。 また一般社会にでる場合でも, 数学の勉強を通じて身に着けた正確な論理性やものごとを深く追求する姿勢は,様々な仕事をする上で 大きな助けになります。というのは,技術が進歩し社会が複雑化するにつれ,ものごとの数理的本質を深く洞察する姿勢がますます求められるようになるからです。数学は自然界の摂理を解明する強力な道具としての役割を果たしてきました。数学科ではまた実社会で脚光を浴びている高度な数学理論を学ぶこともできます。たとえば,数理ファイナンス(下記の「アクチュアリー・統計プログラム」参照)や暗号理論,あるいはコンピュータネットワークや数値計算アルゴリズム開発などコンピュータに関わる数理です。

数理科学研究科やほかの大学院などに進学するために何より求められるのは, 1,2年で学ぶ基礎数学をしっかり身につけることです。 専門課程である数学科で学習する現代的な数学は,抽象化が進み, 皆さんがもっている素朴な感覚とはずれているかもしれません。 このギャップを埋めるには,自分で専門書を読むなど, 進んだ数学にふれておく努力をしてみるとよいでしょう。 また物理など,数学と関連深い分野を勉強しておくのも, 豊かな発想を養うのによいと思います。

数学以外にも,語学,とくに英語は,しっかり勉強しておいて下さい。 4年のセミナーでは,原則として英文テキス トを読むことになります。 また将来研究者になる場合には, 自分で論文を書くとき,研究に関する情報を集めるとき, 英語でほかの研究者と議論するとき, 外国の研究機関に滞在し現地で生活するときなど, あらゆる局面で総合的な英語力が必要になります。 語学教育をやってもらえるのは1,2年だけです。 この間に可能な限り英語力を身につけて下さい。

情報科学科

学問分野の紹介

今日社会基盤となり将来の社会・自然科学の展開に不可欠な情報科学について研究・教育を行っている。情報技術は広く科学技術の根幹を成す技術であり、情報と名のつく学科は数多く存在するが、そのほとんどは計算機を道具として利用するだけのものである。理学部情報科学科では、情報処理の根本原理の究明・まったく新しい動作原理の計算機の設計・計算機の新しい使い方の提案というように、計算機・情報そのものを研究対象としている点を特徴としている。具体的には、計算そして知能に関する基礎的な理論、計算機システム・ネットワークの構成法、グラフィックス・自然言語処理・生物情報などの応用分野、そして量子計算・分子計算などの新計算モデルについて研究を行っている。

カリキュラム概要

情報科学科では、情報科学の最先端の研究を行うために必要な素養を習得することを目的に、計算機科学の基礎科目を中心としたカリキュラムが組まれている。特に、駒場の4学期から三年の夏冬学期において、情報科学のための数学や論理学、各種アルゴリズムの基礎、計算システム(ソフトウェアおよびハードウェア)の構成法、人工知能などに関する講義と演習・実験など非常に重要な科目を学習する。特に実験・演習ではコンパイラなどのソフトウェアを開発するプログラミング実験、プロセッサを作成するハードウェア実験を通して情報システムの基本を身に付けるとともに、大学院での研究や就職後における研究開発の基盤となる実践力を体得する。

情報科学科カリキュラムの特徴は、数少ない講義で基礎項目の実力練成を狙っていることである。そのため、駒場の4学期から三年の夏冬学期における講義はすべて必修になっている。また三年の夏冬学期は原則として講義が午前中二限に一科目開講されるだけで、午後はすべて実験・演習に充てられる。

四年の夏学期から、最先端の研究への入門的な講義が選択科目として始まる。これらの講義を通して、卒業研究や大学院での研究の方向付けをすることが期待される。四年の冬学期は卒業研究にあてられる。この時点で研究室に配属され卒業研究を行い、最終的に卒業論文をまとめる。

物理学科

物理学とは、実験と理論を両輪にして、我々を取りまく森羅万象を一つ一つ解き明かして普遍的な法則や概念にまとめ上げていく学問です。七色の虹や美しい対称的な形の雪の結晶など身近な現象から、宇宙はどのようにしてでき、どうなってゆくのか、それを認識する我々という生命はどうやってできたのかなど、また最近では経済・社会現象までも含めて極めて多様な現象を対象とする学問です。
特に、物質の成り立ちを求めて、原子・分子、原子核素粒子にいたる要素還元論的な物理学は大きな成功を収め、今や、質量の起源をも解明し、ダークマターなど未知の粒子にも迫ろうとしています。また、素粒子の世界が宇宙の始まりの理解につながることもまた大きな驚きです。一方、この要素還元論的な物理の方法を物理学の縦糸とすると、異なる現象の関係をつなぎ、物理学の対象を広げる横糸のような分野もまた重要です。例えば、熱力学や統計力学は、対象やスケールの違いを超えて様々な系に適用でき、それらの上に築かれた物性物理学、非平衡物理、生物物理、量子情報などでは、物理学の対象をさらに拡張しつつあります。このように、物理学の概念や手法は、縦横に網目のように絡み合いながら自然の理解を広げ、社会やテクニロジーにも影響を及ぼしながら、まさに現在進行形で「進化」しています。
当物理学科では、世界的にも卓越した物理学者である 70 名を超える教員が在籍し、物理学の広い分野をカバーして教育・研究を行っています。学部3、4年時では、量子力学統計力学電磁気学、相対論など物理学の基礎となる講義だけでなく、充実した実験カリキュラムも用意されており、理論・演習・実験をバランスよく学ぶことができます。さらに、4年時では研究室に所属して各専門分野での最前線の研究に触れる機会もあり、大学院での研究へとつながっています。
物理学科では、物理学の知識やスキルを身に付けるだけでなく、その過程で、情報収集力や分析力、論理性、コミュニケーション力、計画性、忍耐力などを身に付けることができます。教員だけでなく優秀な同級生や先輩後輩との交流による切磋琢磨を通して、「自分で考え自分で道を切り拓いていける人間力」を身に付けることができると考えています。それらは、研究者に限らず、将来どんな知的職業についても必要とされる基礎力です。物理学科で、のびのびと学び、人間として成長して欲しいと願っています。

天文学科

教養学部第4学期

教養学部第4学期における天文学科履修科目は天体物理学演習I、物理数学I及びII、物理実験学、電磁気学I、解析力学量子力学Iが必修であり、天文地学概論その他が選択となっている。天文地学概論は天文学、天体物理学全般への入門であるので、天文学科進学生は受講するのが望ましい。

第3学年及び第4学年

学部における講義は、大別して天文学独自のものと物理学及び地球惑星物理学の講義とに分けられる。後者の物理学の講義については、物理学科及び地球惑星物理学科の教員による講義を両学科の学生と共に受講する。

実験として基礎天文学実験を第3学年夏学期に、観測実習として基礎天文学観測を第3学年に集中的に行う。この時、天文学観測の基礎的技術 の実験実習をする。天文学科、天文学教育研究センター、木曾観測所、国立天文台宇宙科学研究所の最新の研究設備を使う。天文学独自の演習は講義と独立に 天体物理学演習IIと天文学ゼミナールがある。第4学年夏及び冬学期には天文学課題研究I及びIIとして、指導教員とテーマを選んで研究を行う。

地球惑星物理学科

地球惑星科学は、地球・惑星・太陽系の過去(起源/歴史)・現在・未来のすべてを解きあかそうとする学問なので、その性格上、広範な科学的知識とそれを活用する能力が不可欠な分野です。 この分野を志望する諸君に対し、本学科では物理学を基礎とした研究学習能力を陶冶する機会・舞台を提供しています。

地球惑星物理学は物理学を使って地球や惑星上に生起する諸現象を解明する学問分野ですから、数学や物理学が基礎となっていることはいうまでもありません。 したがって教養学部第2学年専門科目及び第3学年の間は、特に物理学の基礎的な科目、物理数学や量子力学統計力学などを学習します。 この際には、理学部物理学科や天文学科と同じ講義を受講します。 第4学年では実際に地球や惑星上で生起する様々な現象とその原理について、広く基礎を学習します。

教養学部Aセメスター(第2学年)  

教養学部第2学年専門科目では、物理学を学ぶ上で基礎となる科目に重点を置いて学習します。また、演習科目も重視されます。物理学や数学の基礎は、繰り返して演習し身につけることが重要だからです。また、第3学年以降の専門科目を学ぶ上での導入講義が選択科目として開講されています。

第3学年・第4学年

第3学年では、地球惑星物理学の基礎的な科目を学習します。地球惑星物理学は巨視的な物体を取り扱うことが多いため、巨視的な物体の物理学の基礎となる科目です。この段階で学習する内容は地球への応用のみならず、日常的な応用範囲も非常に広いものです。3年時に学習する基礎的科目は、将来、地球 惑星物理学のどのような分野を目ざすにしろ、基礎として学修が推奨されています。

また第3学年では、地球惑星物理学実験と地球惑星化学実験と地球惑星物理学演習とが開講されます。地球惑星物理学では実際に地球や惑星を観測したり分析したりすることが重要ですが、そのための基礎的な実験技術の修得のために、地球惑星物理学実験と地球惑星化学実験とが開講されます。また、地球や惑星上での現象は規模が大きく、容易に実験ができないこともあるために、数値実験は古くから重要な技法となっていました。数値実験の基礎的な技術を学ぶために地球惑星物理学演習が第3学年で開講されます。

第4学年では、第3学年までで身につけた物理学の考え方を基礎として、実際に地球や惑星上で生起する様々な現象とその原理について学習します。将来的にいろいろな専門分野に入っていく上での基礎となる講義です。地球惑星物理学科では、学部の段階では専門を絞り込まないため、地球や惑星上で生起する様々な現象の基礎を広く学ぶことができることも大きな特徴です。  

地球惑星物理学科には卒業論文や卒業研究はありませんが、それに代わるものとして、地球惑星物理学特別演習・地球惑星物理学特別研究が開講されます。第4 学年Sセメスターには地球惑星物理学特別演習が開講されます。ここでは論文の講読を中心として論理的なまとめ方、発表の仕方についての基礎的トレーニングが行われます。第4学年Aセメスターには地球惑星物理学特別研究が開講されます。ここでは1-2名程度の小グループに分かれ、それぞれ特定の興味あるテーマを選び、教員のアドバイスを受けながら主体的に問題を解決していく中で、地球惑星物理学における研究のプロセスを体験します。これらの科目のしめくくりとして、各学期の終りには、成果を発表する機会が設けられています。

地球惑星環境学科

「地球の記憶を読み解く」

地球惑星環境学科の教育について

地球惑星環境学科では、自然の観察に基づき、地球や惑星の環境を自然科学的な立場から実証的に解明することを目指しています。そのため、学部教育においては、通常の講義のほかに、フィールドワークと実習・演習を教育の大きな柱にしています。

フィールドワークでは数日から1週間程度にわたって国内や海外に出かけて、実際に多様な自然に接し、地球と生命をめぐる環境の営みや、過去の歴史をひも解く手がかりを得ます。一方、実習や演習では、室内においてさまざまな観察、実験、分析、数値計算・データ解析などの手法を習得し、フィールドで得た情報を解析したり、分析したり、あるいは新しいモデルをつくる基礎を学びます。

基礎を学ぶ:2年Aセメスターから3年Sセメスターは、地球惑星環境学の大枠を理解するとともに、基礎となっている物理化学的、生物学的な基礎、地球や惑星固有の現象や物質の基礎についての講義とそれらに関連した実習や演習、数理的問題についての実習、野外における実習や見学をおこないます。

4年Sセメスターからは各自が関心あるテーマで卒業研究を行います。卒業研究は、ひとりひとりがテーマをもち、指導教官の指導のもとにおこなう研究で、研究結果を卒業論文としてまとめます。

化学科

化学とは?

現代の化学の研究は、宇宙のはてに存在する分子を電波望遠鏡で観測する宇宙化学から、最新のレーザー光計測により生きた細胞を調べる生命化学まで、実に幅の広い分野にわたっています。皆さんが物理学や生物学の研究と思っている研究が、実は最先端の化学研究の一部になっているのです。化学が最も得意とする新しい有用な物質の創成を目指す合成化学、物質変換からエネルギーや地球環境の問題にまで取り組む触媒化学、分子の構造・振る舞いを見る、あるいは見る方法を開発する物理化学や分析化学など、皆さんにお馴染みの分野も、もちろん化学の中心分野を構成しています。これらすべての分野に共通しているのは、自然界の様々な現象を、分子という概念に基づいて理解しようという点であり、そのような自然科学はすべて化学であるということになります。

化学という言葉は、英語のChemistryの訳語です。Chemistry錬金術(鉛などの卑金属から金などの貴金属を作り出す一種の魔術)を意味するAlchemyから派生したものです。その意味を踏まえて、Chemistryに化学という訳語を与えた先人の知恵は、大いに賞賛すべきものです。この物質を創り出すということが、化学が他の学問と異なる最大の特徴の一つです。

しかし、最近の化学は、錬金術とは容易に結びつかない領域で大きく発展していて、化学という呼び名がやや窮屈になって来ていることも事実です。皆さんが20年後、30年後に研究者として活躍している頃には,化学という言葉はなくなっているかもしれません。あるいは、皆さんが新たにふさわしい名前を考え出しているかもしれません。急速な拡がりを見せている化学のフロンティアをさらに発展させていくには、分野にとらわれず、自然の神秘を分子レベルで解明していこうとする意欲に溢れた皆さんの参画が是非とも必要なのです。

化学科概要

化学教室の歴史は,徳川幕府が創設した蕃書調所の精煉方(1861年)までさかのぼります。東京大学創立の年(1877年)に早くも卒業生3名を出した唯一の学科でした。それ以来、本教室は我が国の化学発祥の地、および先導役として学界、産業界、教育界に多くの人材を輩出してきました。例えば我が国の多くの主要な大学の化学科は、当初ほとんど本学科の出身者により創立されたものです。このような伝統は後進に良く引き継がれ現在に至っています。本化学科は、物理化学、有機化学、無機・分析化学の基幹3講座、12研究室から成り立っており、広い分野の礎となる理学としての基礎化学研究・教育をカバーする多様な専門を有する教官を擁し、理学部の広範な自然科学研究教育の一翼を担っています。

大正5年に完成した化学東館(写真上)は、本郷キャンパスの中では最古の建物であり、震災・戦災にも生き抜いて、いまなお当時の面影を残しています。なお、内部は昭和59年に改修されています。一方、化学西館(写真下)は昭和58年3月に完成した地下1階地上7階の堂々たる建物で、全館が研究室になっています。両者に挟まれて化学本館(昭和37年完成、平成5年内部改修)があり、完備した講義室・実験室・学生控室・図書室などが皆さんの進学を待っています。

どこの化学系に進むか迷っている人へのメッセージ

化学系学科は各学部にあり学生諸君の選択の幅は広く、どこに進むべきかは悩ましい問題かと思います。理学部化学科は、最も基礎的に深く化学を探究しようという意欲のある学生を望みます。21世紀を迎え、我が国の科学技術のさらなる発展に基礎的研究の一層の推進が求められていますが、本化学科はかねてから、「良き基礎研究の結果は、やがて良き応用を生み出すと」いう考えに基づき、「基礎」すなわちneeds-orientedよりseeds-orientedをより尊ぶことを旨としています。本教室は、広い視野に立ち、また新しい分野に取り組もうとする意欲にあふれた学生を大いに歓迎します。

カリキュラム

化学の学問の性格からいって、化学者は複雑な物質の示す諸性質、諸現象に正面から取り組む必要がある。従って実験を第一に重視する。3年(第5および第6学期)の毎日3,4限をこれにあて、無機および分析化学、有機化学、物理化学の各分野での実験を必修科目として行う。

一方、諸君ができるだけ広い視野に立ち学問を修めることを我々は希望している。前期の3実験科目と卒業研究(第7および第8学期)以外の科目にはできるだけ選択の自由が確保されており、物理学科、生物化学科などの相補的講義を聴講できるようになっている。4年になって、化学特別研究、いわゆる卒業研究が1年間行われる。これは化学教室のいずれかの研究室に各自の希望により配属され、化学の最先端の独創性を目指した研究を行うことになる。これは化学者としての研究生活のスタートとなる。

生物化学科

生物化学は,生物学と同様,生命現象を対象とする研究領域である。しかし,生物学が植物,動物,人類といったような生命の多様性に注目するのに対し,生物化学はむしろその背景にある,生命現象の普遍的なメカニズムの分子・遺伝子レベルでの解明・理解に最大の力点がおかれている。蛋白質核酸,糖、脂質などの生体高分子の構造(化学構造と高次構造)と機能(相互作用)が,生命現象にどのように関わるか,まだ未知の領域が限りなく残されている学問分野である。生物化学を分子生物学と言い替えてもよい。

生物化学では,生命現象の本質を解明するために生物学はもちろん,物理学,化学の知識も含めた総合的な科学的基礎の上に立った幅広い解析を行う。具体的な課題として,ゲノムの構造とその複製,細胞内情報伝達,脳神経系を含む個体形成の様々な局面における遺伝子の発現・機能および相互作用のしくみ, RNAの構造特異性と機能,蛋白質生合成の機構と調節のしくみ,酵素をはじめ種々の蛋白質の構造と機能及びその分子進化などを明らかにする事を目指している。これらはすべて生命現象を支える基礎であり,今後の研究の新たな展開とその飛躍的な発展が期待されている。特に生物化学の一分野であるゲノム科学の近年における急速な発展に伴い,生物化学は今まで以上にヒューマン生物学として,医学と密接さを増している。更に,生命現象を全体として捉えようとする生物情報科学(Bioinformatics)とも連携を深めている。

生物情報科学科

生命科学はいま、その歴史上もっとも華々しい時代を迎えつつあります。生物情報科学とは、その最先端を切り開く新しい学問領域です。その特徴は、個別の遺伝子やタンパク質を解析するだけでなく、生命システムを生命科学情報科学の両面から解き明かす点にあります。

30億文字のDNA配列からなるヒトゲノム情報(全遺伝子情報)は、いまや、わずかな時間・費用で解読できるようになりました。また、オーミクス解析と呼ばれる、生命現象に関わるデータ全体を計測する技術も、驚くべき発展を続けています。これらの技術革新により、「生命とは何か」という問いに対し、生命現象の全体を俯瞰する新しい視点から迫ることが可能になりました。そして、病気のメカニズムを解明し、生命の進化の歴史をひもといていく上で、膨大な生命科学データを情報科学的に解析していくことが不可欠になりました。

生物情報科学科は、このような背景のもと、既存の学問分野をまたぐ幅広い視点を持ち、生命科学情報科学の双方の専門性を備えた人材を育成するために、東京大学理学部におよそ30年ぶりに新設された学科です。

バイオインフォマティクス」と「システム生物学」

生物情報科学を代表するキーワードに、上で触れたゲノムとオーミクスのほか、バイオインフォマティクスとシステム生物学があります。これら2つのキーワードは互いに重なり合っていますが、おおまかにいうとバイオインフォマティクスは生命を「情報」として捉え、生命科学の膨大なデータを解析するための情報科学的手法を開発し、生命現象の背後にひそむ法則性や規則性を見つけ出す研究分野です。また、システム生物学は生命を「システム」として捉え、遺伝子やタンパク質など個別の要素である"部分"と生命現象のダイナミックな振る舞いである"全体"との関係を数理モデルなどを使って明らかにする研究分野です。いずれの分野も、いわば、生命科学を物理学や工学のような視点から理論的に捉えることが共通した特徴です。

生物情報科学科では、実験(ウェット)と情報(ドライ)の両方のアプローチを学び、生命をシステムとして理解するための研究に取り組みます。生物情報科学とは、生命科学情報科学を単に足し合わせたものではなく、どちらの基礎にも立脚しつつ新しい視点から生命現象を理解することを目指す学問なのです。

新学科設立の経緯(生物情報科学誕生のインパクト)

私たちの最初の取り組みは、平成13年度から始まりました。当初は学科という形ではなく、文部科学省振興調整費・新興分野人材養成「生物情報科学学部教育特別プログラム」により、主に理学部他学科の学生が本来所属する学科の講義に加えて生物情報科学分野の講義を受講する、という形で開始しました。既存の講義のない6限目や夏休み等に開講しましたが、工学部、農学部、薬学部学生や大学院生、更には社会人までさまざまな人が受講し、いざ始まってみると平均40名近い受講者があり予想以上の大盛況となりました。平日の夜や夏休みに行う非常に厳しいカリキュラムであったにも関わらず、約70名の修了者が輩出されました。

この数は通常の学科に相当するものであり、生物情報科学という学問が極めて魅了的で、しかもその需要が大きいことを明確に示していました。

上記のプログラムは平成16年度に終了しましたが、学生からの人気の高さが後押しして「生物情報科学学部教育プログラム」に引き継がれ、本学の独力で新規の学科として生物情報科学科が設立されることになりました。学科の設立は平成19年、進学振り分け後に新3年生(第1期生)が初めて配属されたのは平成21年のことです。新しい大学院専攻とは異なり、学部における新学科設立はその学問分野が新しく発展する場合のみに限られています。本格的な生物情報科学分野の学科設立は国立大学では国内初で、欧米でさえまだほとんどありません。従来の日本の大学は欧米の動きを追随することが多かったのですが、この生物情報科学科の設置は世界に先駆けたものであり、東京大学が世界をリードしていく意気込みの現れのひとつと言えるでしょう。

カリキュラムと教育体制

生物情報科学科への進学が内定すると、まず2年Aセメスター専門科目として、駒場キャンパスで生物情報科学科専門科目を学修します。そして3年生になると本郷キャンパスへと移り、理学部の多くの学科と同様に、午前中に講義を受講し、午後は実験・実習に取り組みます。 講義では、生物学・情報科学を基礎から扱うとともに、生物情報科学分野の幅広い内容を取り上げます。実験・実習では、分子生物学実験とコンピュータプログラミングの双方を取り入れたカリキュラムを組み、既存の学問分野をまたぐ実践力の養成を重視しています。特にコンピュータプログラミングについては生物情報科学科独自の選択必修科目(生物情報実験法)を増やしたことで、よりきめ細やかな対応ができるようになりました。なお、情報科学実験は情報科学科と、生命科学基礎実験・生物化学実験は生物化学科とそれぞれ合同で行います。 そうして身につけた生物学と情報科学の双方の知識を実際の研究と結びつけつつ活用できる力を養うことを目的として、4年生になると各研究室に配属されて卒業研究を行い、卒業論文を執筆することになります。

生物情報科学は日進月歩の領域であることから、従来のような1専攻の教員のみでの運営では柔軟さに欠け教育のポテンシャルを最大限引き出すことができません。そこで、生物情報科学科は、理学系研究科生物科学専攻・新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻・情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻の3つの専攻にまたがる教員により運営されています。また、生物情報科学科の教員のもとで大学院における研究を継続して行う場合には、個々人のニーズに合わせて、適した専攻(大学院)を受験することができます。このように複数の専攻の教員からなる教育組織は、私たちの新しい教育体制の試みのひとつになっています。

メッセージ

最後に私たち教員からのメッセージを。生物情報科学は日進月歩であるだけでなく勃興してから日が浅いため人材が圧倒的に不足しています。つまり、皆さんにはこの分野の中心を担う人材となれる空前のチャンスが目の前に広がっていると言ってよいでしょう。生物情報科学科への進学を志す皆さんが勇気と情熱を持ってこの分野を開拓して、近い将来に国際的なリーダーとなっていくことを私たちは本当に期待しています。

生物学科

ヒトをふくむ多様な生物を対象に、分子から生態系レベルに至る様々な生命現象と、それを解析、統合、理解するための方法を、徹底した少人数教育によって学びます。定員は20名です。進学生は生物学の基盤とさまざまな最先端とを学ぶことができます。

理学部生物学科は,1877年に設立され,長い歴史と多くの伝統を持っています.この間,多くの卒業生は世界の第一線で生物学分野を牽引する研究者として活躍するとともに,わが国の大学・大学院教育でも重要な役割を果たしてきました.

生物学は,この長い歴史の中で,大きな変遷とともに発展してきました.生物学科のカリキュラムも,この生物学の大きな流れの中で,最先端の研究分野を積極的に取り入れるとともに,それまでの伝統ある分野をまもりつつ,その時代の生物学を学修できるように配慮されて作られています.最近では,2010年に大きなカリキュラム改訂が行われ,これまで,動物学,植物学,人類学の3つコースに分かれていたものが,生物学科として統合されたカリキュラムとなりました.生物学科に進学される皆さんは,この統合カリキュラムのもとで,基礎生物学全般と人類科学を学ぶことになります.

生物学科の教育は,主に,生物科学専攻の基幹講座と附属臨海実験所,附属植物園に所属する教員によって行われます.これらの教員は,生命の基本原理とその多様性の解明を目的として,分子レベルからオルガネラ、細胞、組織、器官、個体、集団のレベルにいたる、さまざまな生命現象を対象として研究しており,世界の生物学の各分野をリードする研究者たちでもあります.この教員のもと,進学した皆さんは,分子生物学・分子遺伝学・細胞生物学・生化学・生理学・発生生物学・集団遺伝学・理論生物学・生態学・系統分類学・進化生物学・人類学など、広範囲で多岐にわたる生物学の学問分野を学ぶことになります.生物学科の教育に携わる教員は50名を超え,学生定員20人に比べて非常に多く、徹底した少人数教育も生物学科の特徴の一つです。

農学部

応用生命科学課程

生命化学・工学

微生物・植物・動物・食品・環境資源など、さまざまな対象の生命に関連する多様な現象を、化学・生化学・分子生物学・細胞生物学など幅広い手法を駆使して解明し、さらにその成果を実際に人類福祉に役立たせる人材の育成を目指す。

専修の目的

生命に関連する現象の仕組みを分子から個体までの様々なレベルで化学と生物学に基づいて解析するバイオサイエンス研究と、それを人類社会のために応用するバイオテクノロジー研究を展開することで、生命現象の解明や発見から食糧や食品・環境問題などの解決に貢献できる人材を育成する。

応用生物学

農業における生産と環境にかかわる、植物、昆虫、微生物など幅広い資源生物を対象として、持続的な利用、生産性と品質の向上、ならびに新たな生物資源の創成を目指して、分子から地球生態系にわたる生物学の原理とスキルを学ぶ。

専修の目的

農耕地や緑地における植物およびそれらと密接に関わる昆虫・微生物などの諸特性を分子から生態系にわたる広いレベルで学ぶことを通じて、持続可能な生物生産システムの構築ならびに新たな生物資源の創出に貢献できる人材を育成する。

森林生物科学

森林生態系の植物、動物、昆虫、微生物などを対象とし、生態系から遺伝子に至るレベルで研究を行う。

これらの生物学的特性の解明、森林の育成や健全性の維持、動植物の群集や個体群の管理、荒廃地の再生などに取り組む。

専修の目的

森林生態系管理に関わる生物学的、工学的、社会経済的知見を基盤として、森林生態系を構成する植物や動物、微生物などの生理的・生態的特性や相互関係、環境修復等への活用についての教育と研究を行う。

森林生態系がもたらす恵みを将来にわたって享受するための学術的・社会的要請に応える専門家として、研究者や、官公庁・企業等で幅広く活躍する人材を育成する。

水圏生物科学

海に代表される水圏環境は多種多様の生物を育んでいる。水圏に棲息する様々な種類の生物とその生命現象を、生物学、化学ならびにバイオテクノロジーなどの観点から広く学ぶ。また、実験・実習を通して、食糧問題・環境問題など、人類が今後直面する水圏生物とその環境に関する諸問題を解決するために必要な知識の習得を図る。

専修の目的

多様な水圏生物の生命現象を深く理解し、その持続的利用と水圏生態系の保全に関する教育・研究を通じて、 人類が抱える食糧や環境等のグローバルな課題に対して積極的に貢献できる人材を養成する。

動物生命システム科学

哺乳類を中心に動物の多様な生命現象の謎を解き明かし、動物が持つ潜在的能力の向上や貴重な遺伝資源の保全、あるいは新たなバイオテクノロジーの開発など、動物機能の多面的利用を図る教育・研究を行う。

専修の目的

高等脊椎動物(哺乳類)を対象として、その複雑で多様な生命現象のメカニズムを解き明かし、また動物が持つ潜在的な機能を引き出しうる新たなバイオテクノロジーを開発・応用していくことに積極的に貢献しうる人材を育成する。

生物素材化学

植物、動物、微生物などが生産する糖質やポリフェノール成分、バイオポリエステル、タンパク質など「生物素材」の構造・物性・機能の基礎について、生化学、有機化学、高分子科学などを通して学習する。

専修の目的

「生物素材」とは、生物が作り出す再生可能な資源である「バイオマス(biomass)」から作られる様々な材料や原料のことである。石油や石炭などの化石資源の枯渇や価格の高騰によるエネルギー・資源問題、さらに大気中の二酸化炭素濃度の上昇や地球温暖化といった環境問題を解決していくためには、バイオマスをより高度に利用していくことが、未来社会ではますます重要となる。光合成によって太陽エネルギーが蓄積されたバイオマスを、液体燃料やプラスチックなどの様々な物質に変換する「生物素材化学」によって、持続的かつ循環型社会の構築に貢献していく人材を育成する。

環境資源科学課程

緑地環境学

持続可能で魅力的な緑地環境=ランドスケープを形成するためには、環境現象を解明するための生態学(Ecology)と、研究成果を実社会へ還元・展開するための計画学(Planning)の両面から「みどり」への理解を深めていく必要がある。

本専修では、ランドスケープエコロジーや緑地計画学を基礎とし、都市・農村計画学、環境情報学保全生態学など関連する幅広い分野との学融合を目指して、高度な専門知識を学ぶとともに、社会状況に対する的確な問題意識と総合的な思考能力の習得を図る。

専修の目的

人と自然が共存可能な、健全でうるおいのある緑地環境=ランドスケープの形成をめざし、都市の緑から、里山、湿潤熱帯、乾燥地まで、多様な緑地空間を対象に、その生態的機能やアメニティ機能を生態学・計画学的視点から学ぶことを通じて、緑地環境の修復・保全・創出に貢献できる人材を育成する。

森林環境資源科学

森林と環境、人間との関わりを探求することを通して、環境保全や災害防止に貢献し、ランドスケープの視点から新しい森林環境を創造し、森林資源と機能の持続的利用を図る。

専修の目的

森林生態系管理に関わる社会経済的、工学的、生物学的知見を基盤として、森林の環境形成機能や森林環境の活用、森林資源の持続可能な利用およびそれらに関わる制度設計についての教育と研究を行う。

森林生態系がもたらす恵みを将来にわたって享受するための学術的・社会的要請に応える専門家として、研究者や、官公庁・企業等で幅広く活躍する人材を育成する。

木質構造科学

人間が環境と共生し、快適な生活を営むことができる社会の形成を目指し、木造建築に集約される木材資源や生物資源の利用に関して、環境・資源科学、構造工学、材料科学、人間生理など様々な角度から学習する。
また、本専修において指定された科目の単位を取得すれば、建築士の受験資格を得ることができる。

専修の目的

森林は環境保全はもとより、木材資源を生産する重要な役割を担っている。持続的生産可能な木材に関する利用研究は、微細な組織構造から材料加工・木造建築に至るまでの範囲にわたるが、本専修ではこの分野の科学と技術を身につけ、環境共生型社会のシステム確立に貢献できる人材を育成する。

生物・環境工学

水と緑と大地の科学を基礎として、地球・自然環境を考えながら、食料生産の基盤と地域環境を整備し、生物と環境の相互システムの科学を基礎として生物資源を高度に持続的に利用する課題を、工学的手法によって探求する。

専修の目的

地球・自然環境を保全しつつ食料生産の基盤と地域環境を整備し、生物資源を持続的に利用する課題を、主として工学的手法によって探究する基礎的能力を養い、この分野において社会的に貢献できる人材を育成する。

農業・資源経済学

世界では飢餓と飽食が併存している。この問題を解決するためには、一方で深刻化する資源・環境制約の下で持続的な農業発展の道筋を探ることが必要であり、他方では、「緑の資源」の公正で効率的な分配を実現することが求められている。

本専修は経済学をベースにして、歴史的・政策的・経営的視点も踏まえながら、日本と世界の食料・農業・農村問題を解明することをめざしている。

専修の目的

農業や資源を広く経済の中で位置づけ、農業、食料、資源、開発等に関わる諸問題を社会科学的に分析し、実態の解明と問題解決のための方法と手段を導く能力を養いつつ、この分野における研究水準の向上に資する研究者等、社会に貢献度の高い人材を育成する。

フィールド科学

幅広い生態系を対象としたフィールド研究に立脚し、生物多様性保全および生物環境と人間生活との共存システムを構築する。

専修の目的

生物多様性」「保全」「管理」をキーワードに、森林、農村、都市、水域など多様な生態系の仕組みと人間生活の関わりを広く学ぶとともに、フィールドでの実践的な活動を通じて、持続的社会の構築と地球環境マネージメントに貢献できる人材を育成することを目指している。

国際開発農学

地球規模で発生している諸問題を解決するためには、環境、社会、経済の相互連関を意識し、民間企業や市民社会などのあらゆる関係者が連携しつつ持続可能な開発目標(SDGs)を達成する必要がある。本専修は、人類の生存を支える食料生産と生物圏の保全を通じた、安全で豊かな国際社会の実現に貢献できる人材、とりわけ学問と政策と実践とをつなぐ総合力を備えたグローバル人材の育成をめざしている。

専修の目的

人類の生存を支える食料生産と生物圏の保全を通じた、安全で豊かな国際社会の実現に貢献できる人材、とりわけ学問と政策と実践とをつなぐ総合力を備えた人材を育成する。

獣医学課程

動物の正常な姿と病態を、個体・細胞・分子レベルで総合的に理解することを通じて、生命現象の基本的な問題の解明を目指すとともに、動物臨床と公衆衛生への応用を追求する。

専修の目的

動物と人類のよりよい関係を構築し、両者の健康と福祉の向上を図ることは、従来にも増して世界的に広く希求されている。

本専修は、こうしたニーズに応えるために、生命科学をはじめとする幅広い学問に基づいた高度な獣医学の教授を通じて、地球規模の課題を自ら解決しようとする強い使命感と意志と能力、および社会のしくみへの深い理解と高い倫理性・人類愛を涵養し、もって日本および世界において獣医学領域のリーダーとして活躍する人材を育成する。

薬学部

皆さんは“薬学部”、“大学院薬学系研究科”にどのようなイメージを持っているでしょうか。一般には「薬学部=薬剤師を養成する学部」というイメージが強いと思いますが、伝統的に日本の薬学部は創薬科学研究を行い、薬の専門家を輩出してきており、その中でも東京大学薬学部は創薬科学研究の中心的な役割を果たしてきました。世界的に見ても創薬科学研究に特化した学部はなく、世界の創薬科学研究をリードしています。"くすり"を中心に、「物質」「生物」「医療」の観点から生命科学の教育・研究を行っています。

東京大学大学院薬学系研究科・薬学部は創薬科学研究に興味をもつ学生諸君を心より歓迎いたします、また、教育内容や研究内容は皆さんの期待以上のものであると自負しております。

薬を創(つく)るためには、生命のしくみを知り、病気になる原因を明らかにする必要があります。分子レベルから病態まですべての面において解明していかなければならない課題が多く存在します。生化学、分子生物学、生理化学、発生学、遺伝学、免疫学などの観点から生命現象を解明する必要があります。また、薬を合成するためには合成化学や反応化学が不可欠です。漢方薬を理解し、それを超えるものを創り出すためには天然物化学が必要ですし、薬の性状や生体との相互作用を分子レベルで解明するには分析化学や物理化学が必須です。薬を体の目的部位に到達させるためには、体内動態を解明し、製剤設計が必要になりますし、薬の生体作用を明らかにするために薬理学や毒性学が欠かせません。このように、基礎的な学問から応用的な学問まで、幅広い研究を集約する必要があります。また、従来の学問体系では分類できないような境界領域の研究も増えています。つまり、薬の創製はまさにこれら最先端科学の集大成といえます。東京大学薬学部・大学院薬学系研究科は「医薬品(薬)」という難易度が高く、かつ高い完成度の要求される「物質科学」と「人間の健康」という「生命活動の科学」の融合を探求する場としての役割を果たしてきました。つまり、薬が創られるまでの基礎研究に重点を置き、その専門家を養成するための教育に力を入れてきました。薬学部は講義も実習もカリキュラムは盛り沢山ですが、薬の専門家を養成するために必要なのです。さらには、医薬品に関わる経済問題、薬剤師や国民に対する適切な情報提供、薬学と経営学の視点をもったバイオベンチャーの人材育成にも力を入れています。こうした教育・研究を通じて実力を養った卒業生は、大学や研究所、製薬企業、医療行政などの分野で活躍しています。

より良い"くすり"を創りそれを有効に利用するためには、生命のしくみを知らねばなりません。生命の多様な現象を根源から解き明かすためには、化学、生物、物理の基礎学問から、より"くすり"に近い薬理学、製剤学などの幅広い学問が必要とされています。また、"くすり"が実際に使用される段階では社会とのかかわりが重要となります。この様な学問を基盤とした応用の一つとして"くすり"の創製があります。薬学部・薬学系研究科においてはそれぞれの分野に対応する20以上の研究室があり、いずれも世界のトップレベルの研究を行っています。学部・研究科としては小ぶりですが、学問、特に生命科学における東京大学薬学部・薬学系研究科のインパクトは非常に大きく、発表学術論文数なども目を見張るものがあります。また、卒業生は国公立研究所、企業、医療の現場など、国内外においてもオピニオンリーダーとして活躍しています。"薬学部"は基礎科学の研究重視の学部で大学院進学率も90%以上の高率で、大学院修士課程から博士課程への進学も60%を越えています。

薬剤師国家試験の受験資格が"薬学部"卒業生だけに与えられている事は言うまでもありません。医療チームの一員としての病院薬剤師(薬物治療の専門家)の果たすべき役割にも期待が集まっており、当学部においても少数ではありますがこのような人材の養成を視野に入れていることを附記しておきます。

薬学の生命科学はその応用として"くすり"につながっています。知り合いが癌になった人も多いことでしょう。エイズに苦しむ人や認知症などで本人自身とともに家族の大変な苦労も良く耳にするところです。これらの疾病の治療薬が開発された暁には、全世界で何億人もの人々に福音をもたらすことになり、患者や家族の喜びは想像するに余りあります。"薬学"はやりがいのある学問で、諸君の人生をかけるに足るものです。そして"薬学部"、"薬学系研究科"は諸君の期待に応えるでしょう。薬学の生命科学はその応用として"くすり"につながっています。

医学部

医学科

基礎医学社会医学系について

基礎医学社会医学関係の教育は、A1タームより開始され、第3学年には大体終了するが、そのすべての科目の試験に合格しないと第5学年に進級する資格が得られないので、従って臨床実習にも出席できないことになる。

授業を行う順序としては、わが国の多くの医学科では伝統的に解剖学、生理学、生化学などから始まり、順次薬理学、微生物学、病理学、免疫学の講義があり、これと並行して、社会医学系である衛生学、公衆衛生学、法医学などの講義が行われる。まず患者に接し病気の概念を身近に感じた後に基礎医学を学ぶという考え方もあるが、本学では、正常を知る基礎医学の土台があって初めて、疾病を扱う臨床医学の教育が成り立つという考え方に沿っている。学生は進級した後、更には卒業した後も折りにふれて基礎医学の知識を振り返り、その進歩を自ら追いつつ、学問を背景とした医療従事者にならなければならない。最近の医学教育の潮流として、基礎医学の学習においても臨床医学とのつながりが理解されるような工夫がなされている。本学においても統合講義などを含め常に人間のための医学を意識した講義がなされている。

基礎医学社会医学各科目は講義の他に実習の時間がある。しかし、100名余の学生に対して教員の数、あるいは投入し得る時間も十分とはいえず、また短時間に学生自らがテーマを深める方向性は追うべくもないため、これを補う意味もあり、教養学部第1学年の夏休み前に基礎各講座、医学部と密接な関係にある医科学研究所などの研究室に少人数にわかれて実際の研究活動を体験し、雰囲気にふれる機会「フリークオーター」が設定されている。

さらに、研究活動を深めたい学生に対しては、学部の公式なサポートの下通常のカリキュラムも履修しながら、よりインテンシブに基礎医学研究を体験学習できる機会が設けられている。第3学年より一般カリキュラムと並行して開始する「MD研究者育成プログラム」を平成20年度から、「臨床研究者育成プログラム」を22年度から選択制で開設した。また、通常カリキュラムと平行するのでなく基礎医学研究活動に全面的に取り組みたい学生には、第4学年終了以後に通常カリキュラムを休学または退学し、大学院進学を行うPhD-MDコースも平成13年度から用意されている。さらに、これらの機会以外にも自分から進んで研究室に出入りする学生があり、それも大いに歓迎すべきことである。このような行動を通じて自ら思考し判断する学問的能力を身につけて欲しい。

以下、まず基礎医学系各科目について概説する。

解剖学は、生体の構造を分子から細胞、組織、個体にいたるまで理解することを目的としている。細胞生物学では、遺伝子、分子、細胞、組織、個体を一連のものと理解し、さらに構造、物質、機能を一体として理解できる事を目的とする。このために肉眼解剖学実習、組織学総論各論講義及び顕微鏡実習、細胞生物学講義、脳の解剖及び組織実習を行う。解剖学教室の研究もこの様な分子細胞生物学的視点に立ち、学際的アプローチを駆使して、細胞の形づくり、細胞内物質輸送、及び情報伝達の機構等の研究が行われている。

生理学は、生体の正常な機能をおもな研究対象とし、長い歴史と広い裾野をもつ、基礎医学の「かなめ」となる学問分野である。講義および実習は、統合生理学教室、細胞分子生理学教室および神経生理学教室が中心となり、広範な学問分野をカバーしている。実習では、学問の最新の技法に接することができるよう努めている。医学部においては、人体の生理学を究極の目標とするが、単一細胞から霊長類まで、種々のレベルの研究材料を用いる。わが国の脳科学の中心として脳の高次機能(記憶、認識)、感覚・知覚、運動制御の仕組み、および生命現象の基礎となる細胞内・細胞間の情報伝達メカニズムを研究している。

生化学は、生命現象を物質・分子レベルから研究する学問であり、化学、分子生物学、細胞学等広くカバーしている。医学部の生化学は最終的にはヒトの生理や疾病を対象とした研究を目指している。分子生物学教室は細胞周期を司る遺伝子の解析を進め、細胞増殖、癌、細胞分化などに関連した遺伝生物学を、また細胞情報学教室は細胞情報伝達やホルモンの作用機序をタンパク質と遺伝子の両面から研究している。代謝生理化学教室(旧栄養学講座)は、発生・幹細胞における分子生物学を中心に研究を進めている。3教室と医科学研究所の教員、及び学外非常勤講師よりなる教育スタッフにより、講義がなされている。基礎事項から、最新の成果まで網羅されている。この間、講義によって得られた知識を体験するため8日間の学生実習などがある。前半でタンパク質、核酸、糖質、脂質の基礎的手技を習った後、後半は選択テーマでより詳細な実験を行う。タンパク質化学、細胞周期制御機構の解析、遺伝子クローニングの基礎、受容体発現調節と遺伝子導入、ホルモン情報伝達機構の解析、マウス発生学と発生工学の基礎などのテーマが行なわれている。

人類遺伝学は、国際保健学専攻に属する人類遺伝学教室が担当している。先天異常やいわゆる遺伝病以外に、多くの疾患でその発症に遺伝子の関与があることが分かってきた。このような状況をうけて、疾病の遺伝的背景を臨床遺伝、集団、染色体、遺伝子などのレベルで解析し、診断や将来の治療につなげておくための基礎知識の習得を目標としている。

放射線基礎医学では、放射線のヒト・生物への作用に関し、解明されてきたことを、分子、細胞、組織、個体レベルを通して紹介し、現在の研究や将来への発展の方向にも触れる。前半部は放射線基礎医学という講義の枠の中で行われ、放射線の物理・化学、細胞の傷害と死の生物学、傷害の修復、発癌、遺伝・染色体異常、腫瘍治療の基礎医学(分割照射有効性のメカニズム、免疫、がんの転移)などが講義される。後半部は第4学年に、放射線の医療への応用、主として癌の放射線治療の基礎に関し、実験と論文講読・講義を複合した形で行う。

微生物学では、細菌、ウイルス、真菌等、微生物、そして寄生虫を扱う。病原生物の重要研究課題と微生物遺伝学、加えて寄生虫学を主軸に講義実習が行われる。病院内感染や国際感染症など臨床的に重要な事項及び微生物を研究材料とする領域の分野を取り上げる。

薬理学は、薬物と生体との相互作用を研究する学問であり、したがって生体の薬物に対する働きかけ(薬物の生体内運命)も研究主題の一つであるが、その中心課題はやはり薬物の生体に対する作用の研究であり、薬物治療学及び中毒学の基礎をなすものである。2教室が協力をして行う講義と実習は、実験薬理学の立場に立って薬物の作用機構を生理学、生化学、形態学の基礎知識の上に理解し、確認することを主眼としている。

病理学は、基礎医学であるとともに、現代医学においては病理診断を通じて臨床医学としての役割も増加している。病気とは何か、すなわち病気の発生・進展のメカニズムについて、形態のみならず病態・機能について研究する学問である。病理の知識は臨床医学を学ぶ上での基礎知識として必須のものであると同時に病理診断を通じて臨床医学としての役割を担っている。講義実習は俯瞰的に病態のメカニズムを学ぶ総論と、各臓器や疾患ごとに学ぶ各論に分かれる。また病理学は病理診断を通じ患者の診療に密接に関係しており、第5、6学年においてはC.P.C.(臨床病理総合討議)、臨床実習として病理解剖及び生検・手術症例の診断実習等が行われる。

免疫学は、近年分子生物学的手法の導入により飛躍的な進展を遂げており、リンパ球の分化及び抗原認識機構、サイトカイン等による免疫応答調節機構などの解析を通じ、免疫系を含む生体防御系の解明を目指している。一方では癌、自己免疫、アレルギーなど各種疾患の原因の解明、更にそれらの診断、治療、予防に結びつく可能性を有し、他の研究分野と多くの境界を接する学問である。

続いて社会医学系各科目について概説する。

衛生学は、いかにして基礎研究をとおして人々を疾病から守り、身体的精神的能力を増進させ完全に発揮させることができるかを研究する予防医学および社会医学である。公衆衛生学とは社会医学的色彩をもつ点で共通するが、衛生学では予防医学に関する基礎科学的方法を重視する。講義は1)外因性・内因性ストレスによる生体侵襲機序、それに対する炎症を中心とした生体防御反応―疾病の発症機序解明から予防医学への発展2)感染症の疫学・発症機序、分子環境医学、遺伝子診断、新しいワクチン開発などの社会医学的テーマを中心に行い、実習は少人数制で独創的なテーマを基にして行われる。

法医学は、全死亡の1割以上を占める異常死の死因を公正に決定し、関係者の人権を守る役割を担うが、このことには、臨床医の理解が必須である。また、日常の臨床の中にも、医事紛争に発展しやすい、あるいは誤診・誤判しやすい類型的症例があるが、あまり気付かれていない。法医学では、これらのことを学ぶとともに、過労死、賠償医学、脳死や臓器移植、あるいはインフォームドコンセントを含む生命倫理に関しても、医師として持つべき知識と理解を得ることができる教育を目指している。

公衆衛生学は、後期課程後半に英米のマスターレベルの学習を目標に講義と実習が行われる。第4学年の系統講義では、公衆衛生学の体系的理解と基礎的方法論の習得を目的として、総論、疫学、地域保健、産業保健、環境保健、国際保健、行動医学、医療経済、医療政策・行政などを教授する。行政、地域保健、地域医療については国や自治体の行政官、現場の専門家などが講義を分担する。第5学年の実習は少人数の班に分かれ、チューターの指導のもとで具体的なテーマで実施される。最終学年には、公衆衛生学・保健医療論の総括ならびに臨床医学との統合講義を含む社会医学集中講義が開講される。

統計学及び医療情報学は、病院企画情報運営部及び健康科学・看護学科の専門家及び非常勤講師が分担して検定理論、相関因子分析など統計学の基礎及び衛生統計、診断情報処理、医療情報システムなど医学への応用につき講義を行う。

臨床医学系について

臨床医学系の講義・実習は、主として、後期課程の後半3年間に行われる。臨床医学系には、内科学、小児科学、精神医学、外科学、脳神経外科学、形成外科学、小児外科学、整形外科学、産科学婦人科学、眼科学、泌尿器科学、耳鼻咽喉科学、皮膚科学、麻酔科学、放射線医学、口腔外科学、救急医学、リハビリテーション医学、臨床検査医学、医療情報学、輸血学、感染制御学などがある。将来医師となっていずれかの科目を専門とすることになっても、医学生としてはすべての科目を習得しなければならない。すべてが必修科目である。人間の病気を扱うには、人体のあらゆる部位の構造と機能、さらにその病態を知らなければならず、人間を1つの有機体として理解することが要請される。医学科の後期課程の4年という長い期間は、その要請に応えるための最低の条件である。

医学部を卒業し医師国家試験に合格すれば、法律的には医師としての資格が与えられることになるので、学部教育の意味は社会的にみてきわめて重要である。学部教育の目標は、病気の本態や治療の原理に関する科学としての知識や研究方法の原理を学ぶとともに、直接患者に接する教育を通して、医の倫理、医師としての義務と責任を体得し、また、病気の個人的、社会的意味を知り、卒業後の基礎医学臨床医学社会医学、医療行政など各方面での活動のための基礎とオリエンテーションを身につけることにある。しかし、実際問題としては、学部を卒業して医師の資格をとればすぐに一人前の臨床医や医学研究者として社会で活動できるわけでなく、そのためには卒後の長期にわたる研修が必要である。

臨床医学系の講義は、系統講義とよばれ、病気のおきる仕組みなどの基本的知識と診断・治療の原則などを広く理解するための講義である。4学年の初めから、まず内科・外科の系統講義が始まり、4学年後半から他の各科の系統講義が始まる。これらの系統講義は、4学年でほぼ終了する。4学年の終わりに、全国共通で行なわれる共用試験を受験する。共用試験は、コンピューターで受験者ごとに異なった多肢選択問題が提出されるComputerBasedTesting(CBT)と、模擬患者に医療面接や身体診察を行う客観的臨床技能試験(OSCE)とからなり、これらに合格することが臨床実習を開始する要件となっている。共用試験を合格したものには、ステューデントドクターの称号があたえられる。

実習は、4学年から始まる半年間の臨床診断学実習が最初にあり、医療面接・視診・打診・聴診・神経診察などを実習する。この中で医療面接実習は、模擬患者の協力を得て行なわれる。また、4学年の終わりには先述のOSCEがある。5学年より臨床実習(クリニカルクラークシップ)が始まる。小人数(6~7人)単位に分かれ、1~3週間の期間、それぞれの臨床科に配置される。病棟で入院患者を受け持ち、診察や診断、あるいは外科手術も含めた治療法を診療チームの一員として体験する。医学部は、本郷キャンパスに附属病院(東大病院)を持ち、一般診療から先端医療まで行う総合病院として社会に開かれた診療活動を行っている。東大病院は、臨床教育を行い優れた医療人を育成するために設けられた教育病院であり、診療を通しての教育や研究という大学が果たさねばならないミッションを有している。臨床実習は主として東大病院で行われるが、それ以外に多くの協力病院、医療施設も学生の臨床実習に関わっている。臨床実習にあたっては、病気に苦しんでいる患者との間に、ヒューマニズムに直接関わる重要な問題があることを十分に認識しておく必要がある。とくに、臨床実習は医学教育上の立場を理解し協力する患者の好意に立ってはじめて行われるものであることを知らねばならない。5年6年の間に2‐4ヶ月間、自由選択期間がある(エレクティブクラークシップ)。学生の希望によっては外部病院あるいは海外の病院で行うこともできる。このように現実の患者に接し、診断・治療の実際のプロセスを経験し、また患者との結び付きを多く持ち、疾病の経過や治療効果などを体得する。臨床実習は、医学教育のなかでも最も重視されるもので、これによって各種の疾病に関する知識を強化することのみならず、医師としての態度、技能をも身につける。これらの課程をすべて十分なレベルで修了することが卒業の要件となる。医学部医学科を卒業することは、医師となる最低限の資格ができたことを大学として認めたことを意味するので、単に学業成績のみならず、医師としてふさわしい人間かどうかも重要な判定の要素となる。

卒業後の進路

医学科卒業後の進路はいろいろである。大別すれば臨床医として研修を行うもの、基礎医学研究課程に進むもの、医療行政、国際医療協力あるいは医事管理などの分野に進むもの、の3つとなる。

臨床医を志すものが最も多く、この進路では医師国家試験を受験し、医師免許を取得したうえで大学附属病院をはじめ、一般市中病院において卒業後の臨床研修を開始する。卒後臨床研修は必修化されており、内科・救急・地域医療が必修科目、外科、小児科、産婦人科、精神科、麻酔科が選択必修科目となっている。2年間でさまざまな診療科においてさまざまな症例を体験することで、どのような状況においても、正しい対応ができるだけの基本的な診療能力を身につけることを目的としている。卒後臨床研修を行う病院はマッチングと言う全国統一システムで決定する制度になっている。東大病院では総合研修センターを設置し、優れた研修システムを整備している。疾患の多様性や診療知識、技術の進歩は昨今、日進月歩であることに鑑み、臨床医学における研究とあいまって医師たらんとするものは一生学び続ける心構えが必要である。基礎医学研究を志すものは次に多く、臨床医を経験した後に基礎医学研究に携わる者を加えると、これまで大まかに卒業生の約1割を数える。とはいえ近年は、基礎医学系教室における医学部出身者の割合は減少傾向であり、能力ある人材の参画は非常に歓迎される。様々な機会に研究能力が自らに備わっているかどうかを確認し、備わっていると感じたら積極的に参画してほしい。医学研究は常に多様な分野との融合により発展してきており、研究能力にはチャレンジ精神や実験技術のみならず、様々な背景の人材と交流するための多様な好奇心やコミュニケーション能力も含まれる。医学を学んだ者が基礎研究に携わる利点は、ヒトの全身を、形態・機能・分子など多様な側面から、メカニズムの解明・未解明にかかわらず、正常・異常にわたり学んだ経験、医学・医療における問題意識を学んだ経験など、他学部では得られない経験を身につけていることにある。これらは医学研究における研究計画の立案や、得られた研究成果の意味付けにおいて、大いに役立つ。この進路においても医師国家試験を受け、医師免許を取るのが普通であり、大学院に直進した場合でも後に臨床医師の卒後コースと交流することも可能である。
大学院への進学を希望する者は、大学院医学系研究科・医学部のホームページを参照の上、不明点等あれば医学部大学院係まで問い合わせること。
 <問合せ先>
  東京大学医学部大学院係
  〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 TEL: 03-5841-3309
医療行政、国際医療協力、医事管理などに進むものは、社会医学系の講座の大学院に進学したり、厚生労働省地方自治体その他に就職する。この場合でも、医師国家試験を受け、医師免許を取るのが一般的である。もし臨床経験を経ずにこの進路を選ぶ場合には、学生時代のうちに学内外で可能な限り診療現場を見て学んでおくと、より現場に有益な活動を行うことが可能となると思われる。
いずれの進路を取るにしても、医学部で学ぶこと・学べること、そして知り合うことのできたネットワークを最大限生かし、その後の人生に役立たせてほしいと考えている。

健康総合科学科

脳死問題やAIDS問題に代表されるように、社会の発展につれて人々の健康問題は多様化し、複雑になってきました。一方、医学技術の進歩、生活水準の向上に伴って人々の寿命は延長し、限られた資源の中で高齢者の生活を充実させる諸方策も必要になってきています。新たな健康問題に対し、有効な解決策を立案・実践するには医生物学的知識はもとより、社会科学、人文科学など、極めて学際性の強い学問体系としての健康科学の確立とその領域での専門家の育成が望まれるようになりました。また、高度な先端医療技術や複雑な治療システムの発展の中で、人として、また生活者としての人間の療養生活を支え、一人一人の生活の質を守っていくためには、質の高い看護援助が必須です。それらを保証するための若い学問である看護学は、人間の健康と生活の質の向上をめざした応用性、実践性の高い学問領域であり、科学的な知識・技術と人間理解が求められます。このような社会的要請は高まる一方であり、全国的な看護教育の大学化もそれを反映したものと見てとることができます。このような中で、本学科には、次代の指導者を育成する教育・研究システムの確立が強く望まれています。
健康総合科学科の教育・研究目標は、このような背景のもとで、以下のように定めます。

  • 人間を環境における生活体として理解し、
  • 生活要因としての環境の解明と、
  • 互いに交錯するそれらの関連性を健康生活の観点から総合的に把握し、
  • 健康を守り高めるための生物的・社会的諸原則を解明し、
  • それらの知識に基づいて、種々の生活条件下にある人々に、より健康な生活をもたらすべき各種施策を開発する。
  • また、上記の知識と技術を土台として保健・看護サービスを提供する能力を育成する。

本学科は、看護・保健専門家養成のために昭和28年にわが国に初めて設置された衛生看護学科、昭和40年にこれを受けて発足した保健学科が平成4年に拡充改組されたものであり、同じく平成4年に医学部に誕生した大学院独立専攻・国際保健学とともに、わが国では他に類をみない健康科学そして看護学に関する総合的な「専門学部・大学院(School)」となっています。健康科学および看護学は、極めて広範な領域の知識体系の実践をめざして結合・再編成する若い学問であり、また、国際的な研究協力体制も今後一層強化されていくことが期待されています。実際、昭和63年に、本学科は各国1大学を原則として組織されているアジア・太平洋地域公衆衛生大学院協議会のメンバーとなり、現在に至っています。さらに、看護学領域においては、北米、北欧、東南アジア諸国を中心に活発な研究交流活動が行われています。